日別アーカイブ: 2015年3月16日

『ビジネスマンのための「読書力」養成講座』

小宮一慶『ビジネスマンのための「読書力」養成講座:小宮流 頭を良くする読書法』(ディスカヴァー携書 2008)を読む。
経営コンサルタントの肩書きのかたわら、明治大学大学院会計専門職研究科で特任教授も務める著者が、経済やマーケティング、経営、会計、ヒューマンリソース・マネジメントなどの専門ビジネス書を通じて、「論理力」を鍛える読書術を指南する。
著者は読書を5つのフェーズに分類する。

  1. 速読〜求める情報を検索し、調べるための読み方
  2. 通読1〜全体をざっと通しで読んでいって、読書を楽しんだり、必要な知識を得ながら大枠をつかむことが目的
  3. 通読2〜論理的思考力を身につけ、自分の考えをより深めていくことを目的に、線を引いたり、メモをとったりしながら読んでいく読書法
  4. 熟読〜自分の専門分野や興味のある分野の本を、全部読まなくていいから必要なところだけ、リファレンスを参照しながら読む
    →およそ30時間で、ある分野のことがかなり理解できるようになる
  5. 重読〜哲学や思想に関する本を何度も繰り返し読み、「意味」を得るだけでなく、「意識」を高めるための読書

著者は「本をほんとうに自分の身になるように読む」方法として、仮説を持つことが大切だと指摘する。自分の仮説や考え方が正しいのかどうかを見極めようという気持ちで読むと、本の読み方がまるで違ってくる。ビジネス書を読む際に、「お客さま第一」や「成功している会社は、キャッシュフロー経営を行っている」といった視点や仮説をベースにして読んでいくと、より深く著者の考えを読み解くことができると述べる。
そういえば、小説でも一般書でもレポートをの主題を意識しながら読んでいくと、何気ない文章でもふと目が留まることがある。自分自身の関心と著者の考えが交わったのである。普段の読書でも仮説やテーマを意識していきたい。

『「文系・大卒・30歳以上」がクビになる』

深田和範『「文系・大卒・30歳以上」がクビになる:大失業時代を生き抜く発想法』(新潮新書 2009)を読む。
タイトル通り、文系大学卒の30歳以上のホワイトカラーが大量にリストラされる状況分析と、そのシュミレーション、対策が丁寧に説明されている。筆者は、リーマンショック以降の不況は一時的なものではなく、少子高齢化や産業の空洞化、商品開発力の低下などが絡んだ構造的なものであり、単にリストラされないということよりも、新しいビジネスチャンスに挑んでいく判断力が求められると述べる。
リーマンショックの嵐が吹き荒れた5年前の本であるが、ちょうど5年前、私自身が「文系・大卒・30歳以上」のホワイトカラーであった。幸いなことに、あと数年でリストラされるということはないだろうが、自分自身の商品価値の見極めと、労働移動や失業にあっても対応できるだけの柔軟性は、常日頃から意識していきたい。

「アクション仮面を裏切らないゾ」

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下の子がぐずってうるさいので、ハードディスクに録画してあった『クレヨンしんちゃん』(テレビ朝日 2012年6月15日放映)を一緒に観た。
新聞を読みながらだったので話の中身を追っていなかったが、ふと画面に目をやると、居酒屋のカウンターで「おパンツってさあ、男のマロンを守っているんだよね」というしんちゃんの呟きに対して、居酒屋のオヤジが「マロン? それを言うなら、ロマンだろ」と切り返す場面があった。
いつも通りの言い間違いのやりとりだが、「草食系男子」「絶食系男子」といった言葉が溢れる現在の日本社会の状況を考えると、5歳児の言葉にしては妙に含蓄のある言葉であった。

そういえば、1年ほど前の「文化系トークラジオLife」で、「クレヨンしんちゃん」の家族モデルにまつわる話があった。1990年代前半の放映開始時、しんちゃんの野原一家は、日本のどこでも点在するごく平凡な家族という設定であった。しかし、20年経った現代日本で、野原一家は平均的な日本人にとって憧れの家族モデルとなっている。しんちゃんの父である野原ひろしは、30代にして郊外に一戸建ての持ち家があり、専業主婦と子ども二人を抱え、マイカーがあり、休日には家族で触れ合うという生活を送っている。放映開始時には当たり前だと思っていた生活が、現代では憧れの成功モデルになっているのである。僅か20年で、日本の平均的な家族像が、クレヨンしんちゃんの野原一家のレベルを大きく下回ってしまったことになる。
アニメと現代社会の比較だったので、耳に残る話であった。

『虹色のトロツキー』

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安彦良和『虹色のトロツキー』全8巻(潮出版 1997)を読む。
あまり漫画を読み慣れていないのだが、実在の人物も登場するので、話の背景は掴みやすかった。
日本人とモンゴル人の間に生まれ、満州事変の余波により父を殺され、記憶を失ったウムボルトが、五族協和を目指す満州の建国大学に入るというところから話は始まる。やがて彼は抗日聯軍の戦士となったり、関東軍の指示で満州軍の少尉となったりと当地の複雑な利害関係に翻弄され、最後は満州国内のモンゴル人を率いて、ロシアをバックにしたモンゴル人民共和國軍との壮絶な戦いに身を梃する数奇な運命をたどる。
フィクションではあるが、単純には語れない戦争の現実の一端を垣間見ることができた。

石原莞爾というと、「世界最終戦争」というトンデモない発想をする頭の悪い軍人だと思っていたが、この『虹色のトロツキー』では、一歩高みに立って政界情勢を見渡すことができる人物として描かれている。
また、当時の満州国が内モンゴル自治区やロシア領土内のユダヤ自治州と国境を接しており、政治的な駆け引きが跳梁跋扈したという歴史的事実は興味深かった。

安彦良和氏の作品は、中学校時代に『アリオン』や、『ヴィナス戦記』のアニメ映画と漫画を読んで以来である。『アリオン』や『ヴィナス〜』も、単純ではない人間関係と、ハリウッド映画とは異なるすっきりしない終わり方が印象的であった。