安彦良和『虹色のトロツキー』全8巻(潮出版 1997)を読む。
あまり漫画を読み慣れていないのだが、実在の人物も登場するので、話の背景は掴みやすかった。
日本人とモンゴル人の間に生まれ、満州事変の余波により父を殺され、記憶を失ったウムボルトが、五族協和を目指す満州の建国大学に入るというところから話は始まる。やがて彼は抗日聯軍の戦士となったり、関東軍の指示で満州軍の少尉となったりと当地の複雑な利害関係に翻弄され、最後は満州国内のモンゴル人を率いて、ロシアをバックにしたモンゴル人民共和國軍との壮絶な戦いに身を梃する数奇な運命をたどる。
フィクションではあるが、単純には語れない戦争の現実の一端を垣間見ることができた。
石原莞爾というと、「世界最終戦争」というトンデモない発想をする頭の悪い軍人だと思っていたが、この『虹色のトロツキー』では、一歩高みに立って政界情勢を見渡すことができる人物として描かれている。
また、当時の満州国が内モンゴル自治区やロシア領土内のユダヤ自治州と国境を接しており、政治的な駆け引きが跳梁跋扈したという歴史的事実は興味深かった。
安彦良和氏の作品は、中学校時代に『アリオン』や、『ヴィナス戦記』のアニメ映画と漫画を読んで以来である。『アリオン』や『ヴィナス〜』も、単純ではない人間関係と、ハリウッド映画とは異なるすっきりしない終わり方が印象的であった。