内田康夫『赤い雲伝説殺人事件』(廣済堂文庫 1985)を読む。
山口県熊毛郡の上関原子力発電所の建設を巡る住民同士の対立から殺人事件が起きる。反対運動の中心となっている祝島の様子や生活環境、反対する動機などもきちんと描かれており、微妙なテーマであるが、作者の原発に対するスタンスは最後まで一貫している。
物語の最後でそれ以前の文脈を無視した急展開な種明かしで終わってしまい、推理小説としてはやや残念な作品となっている。しかし、過疎化著しい地域で補助金を餌に建設を迫り、中央の政官財に加え、地方やマスコミまでが一体となって原発政策をごり押ししていく危険性が随所に描かれており、社会派小説としてはよく出来た作品であった。
「祝島では中立という立場はない、意見を言わないということは原発賛成に回ることだ」という祝島の住人の言葉は重い。
『赤い雲伝説殺人事件』
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