月別アーカイブ: 2014年8月

『なぜ日本は破滅寸前なのに円高なのか』

藤巻健史『なぜ日本は破滅寸前なのに円高なのか』(幻冬舎 2012)を読む。
著者の肩書きがとにかくすごい。一橋大学を卒業後、三井信託銀行に入行。社費でMBAを取得後、米モルガン銀行に入行。東京屈指のディーラーとしての実績を買われ、東京市場唯一の外銀日本人支店長に抜擢され、同行会長から「伝説のディーラー」のタイトルを贈られる。同行退行後は、世界的投資家ジョージ・ソロス氏のアドバイザーを務め、一橋大や早大で講座を受け持ち、現在は「日本維新の会」所属の参議院議員となっている。
文章は非常に読みやすく、門外漢の私にも、実体経済とかけ離れた円高の弊害や、固定相場制の限界、先物取引の仕組みがよく分かった。

特に、著者が強調する円安の効果が興味深かった。
円安になれば、輸出産業が儲かるが、輸入価格が上がり、やがて取り返しのつかないインフレになるので、為替は安定している方がよいと一般的に信じられている。しかし、輸入に頼らざるを得ないウランや原油、天然ガスなどのエネルギー資源については、輸入に頼る必要のない水力や太陽光、メタンハイドレードに国を挙げて移行すれば、輸入価格の上昇が国民生活を圧迫する影響を減らすことができる。著者は、円高で発電用の輸入原料が安かったので、風力や太陽光などの自国産のエネルギーの開発や研究が進まなかったと指摘する。

また、農業分野でもTPPで関税がなくなり、外国産の安い農産物が国内に自由に入ってくると、国内の農業が潰れてしまうという不安がある。これも著者に言わせれば、「農業問題というよりも、為替問題」となり、「日本の農業の衰退の最大の理由は円高なのだ」という結論になる。関税を撤廃しても、仮にその分だけ円安が進行すれば、海外の日本への輸出企業は価格的に魅力がなくなり、やがては日本への輸出を自主的に減じることになる。関税ではなく、円安こそが日本の農業を守るのである。
円安にするだけで、日本の農業が守られると、単純に結論づけることはできないだろう。しかし、円安で製造業だけでなく、農業も潤すという考えは、大変印象に残った。

スパリゾートハワイアンズ

夏の家族旅行で、福島県いわき市にあるスパリゾートハワイアンズへ1泊2日の旅行に出かけた。ちょうど楽天トラベルで、夏休みいわき市内に宿泊すると1万円引きというセールをやっていたので、復興の一助にでもと思い予約をした。

昨日朝6時半に出発し、局地的に強雨が降りしきる中、常磐道を飛ばしていった。旅館でチケットを受け取り、10時過ぎには館内に入ることができた。昼過ぎまでずっと子どものプールや流れるプールで遊んだ。立錐の余地ものない芋洗い状態で、お互いの会話も聞こえないほどの音で、一度館外へ「避難」し、いわき湯本駅近くのモスバーガーで食事をした。途中、石炭の博物館に併設されていた観光センターで時間を過ごし、夕方にまた館内へ戻った。

夜8時半から有名なハワイアンダンスのショーがあるということで、眠気でむずかる子どもをなだめながら、屋外の温泉プールで時間を過ごした。父親の仕事と相場が決まっているのか、40分前から5人分の椅子を確保し、開演の時間を待つことになった。映画『フラガール』は観ていたが、内心は音楽に合わせてお尻を振るだけのものだろうという思いが頭を擡げつつも、せっかく遠くまで来たんだからと自分に言い聞かせた。

しかし、ステージが始まるとそうした不安は見事なまでに消えて行った。骨盤を8の字にダイナミックにくねらせる踊りは、ダンスというよりもスポーツのようであった。またダンサーの笑顔が魅力的であった。その笑顔の裏には、3年半前の震災で施設が使えなくなってからの半年間、避難所を回ったり、復興のための全国ツアーを行ったりしていた苦労があったことを思うと、胸に込み上げてくるものがあった。後半の筋肉ムキムキの男性ダンサーによるサモアダンスも迫力満点であった。

それにしても、フラダンス(タヒチアンダンス)は、骨盤を立体的にグルグル回すので、ダイエットや腰痛予防に効果的だろうと思った。

 

『石炭のおはなし』

福島・いわき市のいわき湯本駅の近くにある、「いわき市石炭・化石館ほるる」で、『石炭のおはなし』(東宝教育映画 1950)を観た。
生活の燃料の主役が石炭から石油に移行する1960年代の前に作られた映画である。古い白黒フィルムの20分の映画で、石炭の活用方法と、採掘の現場の映像が小学生向けにまとめられている。石炭が電気を生み出し、工場を動かし、蒸気機関車の動力源となり、サッカリンなどの薬にもなる国民生活に欠かせないエネルギーであったことを改めて確認した。炭坑の入り口には「出炭救国」の4文字が掲げられていた。
半世紀も前になる炭坑の閉山は、私にとって学校の歴史の教科書で知る「事柄」であった。しかし、かつて炭坑であった「軍艦島」の現在を伝えるテレビ番組などを見て感じたのだが、閉山は炭坑労働者にとって日本の発展を支えてきたという自負の否定であり、生活の全てを炭坑に捧げてきた家族たちの新しい人生の始まりの「ドラマ」である。
「エネルギー革命」という無味無臭な一言で片付けられてきた石炭について、もう少し勉強を深めていきたい。

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『ハヤタとして、父として』

黒部進『ハヤタとして、父として』(扶桑社 1998)を読む。
初代ウルトラマンのハヤタ隊員役を演じ、その後も悪役俳優として活躍している著者が、ウルトラマンの撮影裏話から、家族5人での手作りアフリカ旅行、そして、あるべき学校教育・家庭教育の形について自由に語る。
ちょうど息子二人がウルトラマンにはまっていることもあり、バルタン星人の「リニューアル」やカラータイマーの謎、「シュワッチ」の掛け声の誕生秘話など、楽しく読むことができた。いささか凡庸な教育のくだりは余計だったか。

『男は一生、好きなことをやれ!』

里中李生『男は一生、好きなことをやれ!』(三笠書房 2014)を読む。
タイトルの妙に惹かれて手に取ってみた。
「女に財布をあずけるな」「好きな仕事でしか得られない『快楽』がある」「男は一生『現役』でいろ」「人生はすべて『自己責任』である」など、保守的、男根主義的な考えが延々と繰り返される。作家伊集院静氏に傾倒しているのか、ハードボイルドな男性像にこだわった物言いが特徴的であった。