宮部みゆき『理由』(朝日新聞社 1998)を読む。
第120回直木賞を受賞し、映画化やドラマ化もされているベストセラーである。横溝正史作品のようなどろどろした人間模様を背景とした長編で、真夏の寝苦しい夜にソファに横になりながらページを繰っていった。いわく付きの競売を巡って起きた一家四人殺人事件に絡まざるを得なくなった人間のドラマを丹念に描きながら、現代の冷淡な家族像や心もとない人間関係の在りように鋭い問題を投げ掛ける。宮部さんの筆力に改めて敬意を表したくなるような完成された作品であった。最後の最後の場面で、殺人事件とは直接関係のない中学生の登場人物が次のように発言するくだりがある。
「僕、おばさんたちのところに間借りさせてくれって頼んだことあったでしょう? あのときは、うちの両親よりも、おじさんやおばさんの方がずっと暮らしやすいって思ったから、頼んだんだ。親よりも、他人のおばさんたちの方が楽だったんだ。八代祐司も、実の親よりもおじさんおばさんの方がよかったんでしょう。それは僕も同じじゃない?」
「だからね、そうやって僕がおばさんたちとずっと暮らしていったら、やっぱり成人しておばさんたちが邪魔になったとき、僕もおばさんたちを殺したんだろうか」
作者は、煩わしい人間関係を「リセット」してもよいと考える子どもたちが生まれつつあるという本当の恐怖を、最後に読者の元へ手渡しているのだ。「理由」のある殺人は許すべからざることである。しかし、「理由」のない殺人は怖い。