加藤周一『読書術』(岩波同時代ライブラリー)を読む。
特別目新しいことは述べていないが、彼の博学には舌をまく。ただ下記の加藤氏の読書のスタイルは気に入った。このような形で古典に親しんでみると、日常のちょっとしたいらいらも軽減されそうだ。
私は学生のころから、本を持たずに外出することはほとんどなかったし、いまでもありません。いつどんなことで偉い人に「ちょっと待ってくれたまえ」とかなんとかいわれ、一時間待たせられることにならないともかぎりません。そういうときにいくら相手が偉い人でも、こちらに備えがなければいらいらしてきます。ところが懐から一巻の森鴎外をとり出して読み出せば、私のこれから会う人がたいていの偉い人でも、鴎外ほどではないのが普通です。待たせられるのが残念などころか、かえってその人が現れて、鴎外の語るところを中断されるのが、残念なくらいになってきます。