読書」カテゴリーアーカイブ

『浄土』

町田康短編集『浄土』(講談社 2005)を2編だけ読む。
ストレス社会に暮らす中年男の暴発的な心理が描かれる。『文學界』や『群像』に掲載された作品なので、黒井千次のような純文学なのかと思い、テーマを探りながら読んだが、いまいち伝わらない作品であった。

『切羽へ』

第139回直木受賞作、井上荒野『切羽へ』(新潮社 2008)を読む。
作者の荒野(あれの)さんは、作家井上光晴氏の娘である。
とある島で生活する若夫婦を中心とした人間模様が綴られる。ひと月ずつ10数ページほどで章立てされており、毎月小さなエピソードが紹介される。不倫の果ての壮絶な喧嘩や惚けて淫夢を見る老女の死など、それぞれは印象深そうなエピソードが挿入されるのであるが、肝心の心模様は描かれず、淡々と話は進行していく。さらっと読み終わったが、さらっと内容は忘れてしまいそうな小説であった。

『平家物語を読む』

永積安明『平家物語を読む:古典文学の世界』(岩波ジュニア新書 1980)を読む。
年明けに平家を扱うので、教材研究として手に取ってみた。学生時代にレポートが間に合わず、テキトーに文字を埋めるために購入したものだ。

『ジュニア新書』とはいえ、原文も多く収録されており、大変興味深く読むことができた。平忠盛や平忠度、平知盛、俊寛や文覚など、これまであまり知らなかった人物の歴史に翻弄される人生ドラマが描かれる。そもそも古典の教科書には平清盛、木曽義仲、源義経に加え、熊谷直実と敦盛の場面くらいしか掲載されない。私もその作品だけで平家の衰亡の通底に流れる「諸行無常」「盛者必衰」のテーマを知ったつもりでいた。しかし、平家だけでなく、源氏、さらには天皇までもが時代の怒濤のような流れの前には為す術もない現実がある。
著者は次のように語る。

『平家物語』という作品は、平家一門をも、また彼らを滅ぼした源氏をも、さらにまた平家といわず源氏といわず、およそこの世に生を享けた、ありとあらゆる人間のすべてを貫いて実現してゆく、無常の運命そのものに迫っているということになるのである。

『IT汚染』

吉田文和『IT汚染』(岩波新書 2001)を読む。
パソコンや携帯電話などのハイテク製品で広く用いられている半導体やディスプレイの製造過程で出る汚染水や、また、廃棄の過程で出る鉛やカドミウムが原因の水環境汚染や土壌汚染について具体的な報告と、求められる対策について述べられている。一般にIT製品というと「クリーン」なイメージが付き纏うが、製造や廃棄において有害が有機溶剤や有毒ガスが大量に用いられている。

また、先日のタイの洪水被害で明らかになったが、日本の半導体メーカーも数多くアジア諸国に工場を持っている。そこで、大規模な工業団地を建設し、伝統的な農村共同社会を崩壊させ、土壌汚染や地下水汚染などの公害を引き起こしている現状も報告されている。

筆者はISO14001の取得のように、まず製造者責任を明らかに、企業側に法的、倫理的な責任を課すことを第一義的な解決策として結論づけている。

『一ふさのぶどう』

有島武郎『一ふさのぶどう』(ポプラ社文庫 1981)を読む。
有島妻や父を亡くした40代以降に、「赤い鳥」に発表された童話が数編収められている。

彼は、晩年(といっても45歳で自殺したので、40代前半であるが…)「赤い鳥」に友情や信頼といったテーマの童話を発表する一方、同時期に『小作人への告別』などの農地解放、自身の特権的な階級への危惧を扱った硬派な作品を発表している。
彼の自殺の遠因に、そうした分裂的な作家生活が影響しているのでは?