読書」カテゴリーアーカイブ

『女子校育ち』

辛酸なめ子『女子校育ち』(ちくまプリマー新書 2011)を読む。
中高女子校出身の作者が、都内の私立の女子校の文化祭や説明会に参加したり、女子校の教員や卒業生にインタビューしたりしながら、誰にでも分かる形で女子校の生態を詳らかにしている。一般に6年間の女子校生活というと、お決まりのドロドロした人間関係や男性の視線を意識しない自由奔放な振る舞いというイメージで語られがちである。しかし、実際は男性がいないために女性の中にある「男性性」が磨かれていき、良くも悪くも逞しくなっていく場であるとのこと。
しかし、近年ケータイやネットの発達、放課後の予備校の充実などで、純粋な女子校や男子校の雰囲気が過去のものになりつつある現状に、作者は一抹の寂しさをもらしている。

『宋姉妹』

伊藤純・伊藤真『宋姉妹:中国を支配した華麗なる一族』(角川文庫 1995)を読む。
夏の最後を飾るに相応しい一冊であった。
孫文の妻で、その後、中華人民共和国名誉国家主席となった宋慶齢と、蒋介石の妻で、台湾の中華民国総統夫人になり、2003年に米国でなくなった宋美齢の二人の姉妹を中心に、「宋王朝」と呼ばれた家族の生き様が戦前戦後を通して描かれる。
戦前の国共合作や西安事件の裏話や、米国の中国外交の対応、国共内戦と国際政治など、昨日の深夜に読んだ現代中国史の部分を補って余りある内容であった。中国史を学ぶ高校生に是非薦めたい本である。

『この一冊で「中国の歴史」が分かる!』

山口修『この一冊で「中国の歴史」が分かる!』(三笠書房 1996)を読む。
元は山川出版社から刊行されていた単行本が文庫化されたものである。
現在深夜3時を回っている。4時間近くかけて、地図を片手に一気に読んだ。
仰韶文化・竜山文化の古代中国文明から秦漢の統一、「三国志」、南北朝時代、隋唐の統一、宋朝、元朝、明朝、清帝国、西欧列強との戦争、中華民国、中華人民共和国まで7000年近くの時代を一気に概観したことになる。教科書に近い読みやすい文体で、裏話も豊富に掲載されており、中国史の入門書としてはうってつけの一冊である。現在でも体裁を変えつつ版を重ねているようだ。
20年前の受験のときに懸命に覚えて以来全く目にしていなかった、明朝末期の「一条鞭法」や「鄭和の大遠征」、康煕帝と乾隆帝に挟まれた「雍正帝」などの単語に懐かしさを感じた。

また、1920〜40年代の国民政府と共産党の内戦であるが、高校時代や浪人時代に勉強したときは「内戦」という言葉が示すように、中国人同士の方針の違いから生じる衝突だと思い込んでいた。しかし、日本の敗戦前から、蒋介石率いる国民政府軍には米軍の兵器が供給されており、ソ連軍が後押しする共産党との代理戦争という側面があったのだ。1970年代、80年代のアフガニスタン紛争と同じ構造の戦争がすでに始まっていたのである。アヘン戦争以降のヨーロッパの帝国主義国家と清朝時代の中国の対立に日本が食い込んで泥沼化したという表面的な見方だけでなく、真珠湾攻撃のかなり前から米国の思惑が深く絡まっており、水面下で冷戦構造が早い段階から形作られてきた点を見逃してはならない。

『時代屋の女房』

第87回直木賞受賞作、村松友視『時代屋の女房』(角川書店 1982)を読む。
大井町の駅前の小さい古道具屋「時代屋」を舞台にした人間ドラマである。内縁の女房が4度目の家出をしてしまい、一人残された古道具の中年の主人を巡る商店街の人たちとのささやかな交流が描かれる。印象に残る風景描写であったが、何が面白いのかあまり理解できなかった。

なお、同作品の他、同じく前年に直木賞候補になった『泪橋』も収録されている。こちらの方が何倍も面白かった。ひょんなことからホストになり、暴力団から追われ、江戸時代に存在した鈴ヶ森刑場へと続く涙橋(現:大田区立会川にある浜川橋)の商店街の一角で匿まわれ、1ヶ月後にこっそり姿を消し行方を眩ませた主人公の男性が、10年ぶりに涙橋に帰ってところから物語が始まる。契約社員という立場ながら、内縁関係の妻とのマイホームや子どもの誕生といった新しいステージに向かっていかざるを得ない「不安」や、10年前に居た土地を巡りつつ自分の本来の姿を探そうとする「希望」が巧みに描かれていた。また、スマホのGooglemapを片手に、旧東海道や鈴ヶ森刑場跡地の大経寺の場所を確認しながら読んだ。地図を見ながら、旧街道沿いの風景を想像する楽しみも味わうことができた。
こちらの作品の方が直木賞に相応しかったのでは? 

『なぜ日本は破滅寸前なのに円高なのか』

藤巻健史『なぜ日本は破滅寸前なのに円高なのか』(幻冬舎 2012)を読む。
著者の肩書きがとにかくすごい。一橋大学を卒業後、三井信託銀行に入行。社費でMBAを取得後、米モルガン銀行に入行。東京屈指のディーラーとしての実績を買われ、東京市場唯一の外銀日本人支店長に抜擢され、同行会長から「伝説のディーラー」のタイトルを贈られる。同行退行後は、世界的投資家ジョージ・ソロス氏のアドバイザーを務め、一橋大や早大で講座を受け持ち、現在は「日本維新の会」所属の参議院議員となっている。
文章は非常に読みやすく、門外漢の私にも、実体経済とかけ離れた円高の弊害や、固定相場制の限界、先物取引の仕組みがよく分かった。

特に、著者が強調する円安の効果が興味深かった。
円安になれば、輸出産業が儲かるが、輸入価格が上がり、やがて取り返しのつかないインフレになるので、為替は安定している方がよいと一般的に信じられている。しかし、輸入に頼らざるを得ないウランや原油、天然ガスなどのエネルギー資源については、輸入に頼る必要のない水力や太陽光、メタンハイドレードに国を挙げて移行すれば、輸入価格の上昇が国民生活を圧迫する影響を減らすことができる。著者は、円高で発電用の輸入原料が安かったので、風力や太陽光などの自国産のエネルギーの開発や研究が進まなかったと指摘する。

また、農業分野でもTPPで関税がなくなり、外国産の安い農産物が国内に自由に入ってくると、国内の農業が潰れてしまうという不安がある。これも著者に言わせれば、「農業問題というよりも、為替問題」となり、「日本の農業の衰退の最大の理由は円高なのだ」という結論になる。関税を撤廃しても、仮にその分だけ円安が進行すれば、海外の日本への輸出企業は価格的に魅力がなくなり、やがては日本への輸出を自主的に減じることになる。関税ではなく、円安こそが日本の農業を守るのである。
円安にするだけで、日本の農業が守られると、単純に結論づけることはできないだろう。しかし、円安で製造業だけでなく、農業も潤すという考えは、大変印象に残った。