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『〈自己責任〉とは何か』

桜井哲夫『〈自己責任〉とは何か』(講談社現代新書 1998)を半分ほど読む。
10年以上前に購入した本だが、ここ数ヶ月、テレビニュースなどで「自己責任」や「説明責任」という言葉を耳にすることが多く、気になって本棚の奥から引っ張り出してきた。冬山のスキーでコース外を滑走して遭難した人たちやシリアに行ってISILに捕縛された人たちに対して、「自己責任」という厳しい言葉が投げつけられる。また、違法性の高い献金を受け取っていながら、「知らなかった」で済まして「説明責任」を果たしたという政治家

筆者は、「自己責任」という言葉の背景には、個人が責任を取らなくてもよい無責任な社会の構造があると指摘する。特にタテ社会や公務員体質においては、全ては「上の責任」、「前任者の責任」として片付けられてしまい、当事者の無責任な言動へと繋がっていく。
責任という言葉の定義や由来を、参考文献を挙げながら丁寧に説明しているのだが、引用が多すぎる余り筆者の主張がいまいち明確に伝わってこなかった。

『佐藤可士和の超整理術』

佐藤可士和『佐藤可士和の超整理術』(日本経済新聞出版社 2007)を読む。
日本を代表するアートディレクター/クリエイティブディレクターの著者が、机上「空間」やオフィス空間、パソコンのフォルダなどの整理テクニックに始まり、クライアントとの密なコミュニケーションにより「情報」を整理し、自らの「思考」を整理しすることで、新しいものを生み出していく一連の創作過程を丁寧に説明している。ドコモのケータイや明治学院大学のロゴ、ユニクロの店舗など、著者が関わった作品制作の裏話もあって興味深く読んだ。
特に、著者がオフィスの空間だけでなく、パソコンのフォルダについてもスタッフに対して整理を徹底しているという話は参考になった。
最後に著者は整理について次のようにまとめている。

【空間の整理の目標】

  • 定期的にアップデートする→モノを増やさないため
  • モノの定位置を決め、使用後はすぐに戻す→作業環境をすっきりさせるため
  • フレームを決めてフォーマットを統一する→わかりやすく分類するため

【情報の整理のポイント】

  • 視点を引いて客観視してみる
  • 自分の思い込みをまず捨てる
  • 視点を転換し、多面的に見てみる

【思考の整理のポイント】

  • 自分や相手の考えを言語化してみる
  • 仮説を立てて、恐れずに相手にぶつけてみる
  • 他人事を自分事にして考える

『関西の秘境 芦生の森から』

芦生の自然を守り生かす会編『関西の秘境 芦生の森から』(かもがわ出版 1996)を読む。
地球温暖化やらエネルギーやらとスケールの大きい問題の話が続いたので、国内の自然に関する本をと思い手に取ってみた。
関東の人間には聞き慣れない地名だが、芦生という所は京都府北東部の美山町にあり、手つかずの原生林を含む5,100haの山林が広がる土地である。その内の8割が京都大学農学部の演習林として貸し付けられており、その半分は人手が全く入っていない原生的様相を残した森林となっている。
本書では、実際に芦生で暮らす人々の森林との共生について丁寧に触れられている。単純なスローガンで終わるだけの自然保護ではなく、自らの経済的な暮らしを守りながらも自然と共に生きようとする農業組合や、ダム建設反対運動に取り組む活動の模様が紹介されている。

1967年に計画が発表された「芦生揚水発電ダム」であるが、これは若狭湾の原発群とセットになっており、夜間の余剰電力を活用して水を汲み上げるという「原発の補完物」(芦生の自然を守り生かす会 井栗登会長談)なのである。原発は発電所の周囲だけでなく、遠く離れた森林をも破壊する「やっかいもの」だということがつくづく実感できた。

LInk:京都大学フィールド科学教育研究センター森林ステーション芦生研究林
Link:京都・美山 野生復帰計画

『正しいようで正しくない敬語』

奥山益朗『正しいようで正しくない敬語』(講談社+α文庫 1994)を5分の1ほど読む。
1975年に刊行された『現代敬語読本』に加筆、再構成したものである。
著者は、朝日新聞社で出版校閲部長を務めており、多数の使用例を挙げて、敬語の正しい使い方や誤用について丁寧に指摘を加えている。
ちょうど古文で敬語法を扱ったところだったので、頑張って読もうと思ったが、途中で挫折してしまった。
幸い「あとがき」の中で筆者は次のように述べる。読み切ることができなかったが、少し救われる思いである。

 これまで敬語というと、文法上の法則やら、定められた規範を示して、それに反することを叱責するものでした。本書もまた、そのような点がないとはいえませんが、規範以上に大切な言語活動のあることを書き記したつもりです。
 とにかく、明快な言葉で話したり、書いたりしましょう。
 自分の意思ははっきりといい、相手の言葉はしっかりと聞きましょう。
 不必要な言葉、テレ笑い、頻繁なあいづちはやめて、言葉と言葉でわかり合いましょう。
 わからないこと、知らないことは、はっきりと「わからない」といいましょう。
 そのうえで、敬語を使えたら使う、使えなかったらやめるに越したことはありません。

『地球環境 危機からの脱出』

レスター・ブラウンほか『地球環境 危機からの脱出:科学技術が人類を救う』(ウェッジ選書 2005)を読む。
2004年11月9日に開催された、JR東海主催の「高速鉄道会議2004〜東海道新幹線開業40周年記念〜『地球の未来のために』〜高速鉄道は何ができるのか」と題されたシンポジウムを採録したものである。
帯水層の枯渇の問題や酸化チタンによるソーラー・ハイドロジェン・システムや光触媒の普及拡大、水素の太陽エネルギーの活用の余地など、持続可能な地球環境に対する科学技術のアプローチについて分かりやすく説明されている。

JRグループが主催しているので、開発途上国で自動車が普及していくと地球環境の負荷が拡大するという結論に集約されてしまうのだが、環境問題について、技術面だけでなく、経済的側面からも迫っており、環境問題の入門書として読みやすかった。
孫引きになってしまうのだが、ワールド・ウォッチ研究所の所長を務めるオイシュタイン・ダールの言葉を紹介したい。

社会主義は、価格に経済の実態を反映させなかったために崩壊した。資本主義は、価格に生態学的なリアルコストを反映させないために崩壊するかもしれない。

パネリストの一人である松井孝典東大大学院教授は次のようにまとめる。

(ノーベル賞を受賞した小柴昌俊教授が研究していたニュートリノだが、現在私たちの社会を築く上で何ら利用価値はないという話に続いて)「科学技術は地球文明を救えるか」というテーマで話している中で、具体的な話というのは難しいと思うのですが、やはり私は、直接の応用がなくても自然を理解することが、私たちがこれからの社会をどう作っていくかを考えるときには、非常に重要であると思います。地球や生命、あるいは宇宙や物質を私たちが理解することが、その目的はそれを知るということだけであっても、実は広い意味では、私たちがどういう社会を築いていくのかというところに関係しているのだと思います。

  • 帯水層
    地下水が蓄えられている地層。通常は、粘土などの不透水層にはさまれた、砂や礫からなる多孔質浸透性の地層を指す。実際には、この帯水層が何層にも重なっている場合もある。この地層では、地下水の流速が比較的速いため、大量の地下水をくみ上げることができる。しかし、急激な地下水のくみ上げにより、帯水層中の水の移動だけでは水の補給が間に合わなくなると、帯水層を取り囲む不透水層中の地下水が絞り出されて地層が収縮し、地盤沈下が発生する。