読書」カテゴリーアーカイブ

『人間豹』

江戸川乱歩『人間豹』(ポプラ社 1973)を読む。
久々に全部読み通した。途中殺人事件が起こるので、変装ばかりの怪人二十面相シリーズではないという安心感もあり、最後まで何とか読み終えた。途中アパートの隣に住む大学生が銃をぶっ放したり、結局犯人は正真正銘の人間と豹のあいのこであったという設定など、疑問を感じる場面があった。

『進化を飛躍させる新しい主役』

小原嘉明『進化を飛躍させる新しい主役:モンシロチョウの世界から』(岩波ジュニア新書 2012)を手に取ってみた。
モンシロチョウは雌雄とも大きさや形が同じなのに、どうして雄は雌を識別できるのであろうかという疑問に対する研究の過程が丁寧に説明されている。結論としては人間の目には見えないがモンシロチョウには見える紫外色できっちりと雌雄が識別できるとのことである。筆者は後半、さらに論を進めて、モンシロチョウの雄がモンシロチョウによく似たスジグロシロチョウの雌に対しても求愛行動をとることを突き詰めている。実際に異種間交雑が行われたという事実は確かめられなかったが、異種間交雑から新しい新種が生まれることの可能性について言及したところで終わっている。

『とりあたま大学』

西原理恵子・佐藤優『とりあたま大学:世界一ブラックな授業!編』(新潮社 2015)を読む。
今回も漫画はよまず、佐藤氏のコラムだけを読む。だいぶ現在に近づいてきて、3Dプリンターやビットコイン、STAP細胞、マウンティング女子など、当時話題となった商品やネタに関するコメントがまとめられている。その中で2014年3月のクリミア議会の独立宣言が興味深かった。クリミア半島を実効支配している中で行われたクリミア議会の住民投票で、96%以上がロシアとの統合に賛成する結果が出たという内容である。そのニュースを受けて、佐藤氏は次のようにコメントする。

この事件は北方領土交渉にも影響を与える。仮にロシアが北方四島を日本に返還しても、その後、ロシア系住民が住民投票を行い、「もう一度ロシアに編入して欲しい」という主張に大多数が賛成すれば、ロシアが軍隊を進駐させ、北方領土を再奪取する可能性が排除されなくなるからだ。北方領土に日本人を移住させるための計画を早急に立てる必要がある。日本人が北方領土に住んで、ビジネスを始める仕組みを考えなくてはならない。手っ取り早く、色丹島、国後島、択捉島に洋上カジノを設置することを提案する。

ここで筆者がカジノを取り上げたのは、ロシアの役人を靡かせるツールとして大変有効だという経験則に基づくものである。カジノに行くのはロシアでも日本でも、基本的にお金持ちの会社経営者や政治家、役人、芸能関係者などである。経済が苦しいロシアに対する洋上カジノ提案は、行き詰まった日露交渉の打開策として期待できるのではないか。

『館山の記』

栗原照久『館山の記』(文芸社 2000)を読む。
自費出版だろうか、著者個人の故郷館山での子どもの頃のエピソードが綴られている。
小説の体をとっているが、特に盛り上がりもなく、淡々と著者個人の家族や友人との触れ合いが描かれる。

『ぼくは写真家になる!』

太田順一『ぼくは写真家になる!』(岩波ジュニア新書 2005)をパラパラと読む。
「ぼくは写真家」とタイトルにあるが、フレームや絞り、焦点といったカメラに関する話はほとんどなく、取材で訪れたハンセン病療養所や朝鮮文化を紹介する生野民族文化祭、阪神大震災の現場など、被写体の方たちとの語らいや、人生などが語られる。社会問題のルポルタージュとなっている。

それよりも筆者が25歳で写真学校に入るまでの学生時代の話が興味を引いた。昔懐かしい1969年の早稲田大学の様子が綴られている。三田誠広の『僕って何』や立花隆の『中核vs革マル』の世界である。

入学式のあとも大学は騒然としていて授業もなかなか始まらず、でも下宿でじっとしてもいられないので、ぼくは毎日出かけていってキャンパスをうろうろした。学生運動のなかで日本共産党系の民青と反日共系との対立があるというのは知っていた。が、反日共系のなかでも早稲田に強い勢力をもつ革マルと他のいろいろなセクト、ノンセクトが敵対していて、いわば三つ巴の争いになっているのには面食らった。
あるとき、角材や棍棒を手にしたヘルメットの学生集団を一般学生が遠巻きに取り囲んでいて、そのなかにぼくもいた。一般学生のなかには民生の活動家もまぎれ込んでいるいるようで、ときおりゲバ学生の集団に向かって怒声を放つ。やがてそれが「帰れッ、帰れッ」コールにかわったとき、ヘルメット学生がひとり前に走り出てきて、握っていた牛乳ビンを勢いよくこちらに投げつけた。(中略)
機動隊が導入された日だった。青い乱闘服が正門のところにいならび、導入を知って大勢の学生が集まってきていた。みんな興奮していて、ぼくもどうなるんだろうと人垣の最前列で見守った。ぐるぐる円をえがくようにデモをしていた一団が、向きを変え直線に進んだかと思うと、何と、ヘルメットをかぶった頭を低く落としてそのままジェラルミンの盾の列に突っ込んでいったのだ。
「え、何すんねん」
信じられない光景に、ぼくは関西弁で声にならない声を出した。やむにやまれぬ衝動なのだろうが、あまりにも無意味な玉砕行為だった。殴打のにぶい音がひびいて何人かの学生が地面に叩きつけられた。引っぱられていく女子学生の絶叫がぼくの耳にこびりついた。