投稿者「heavysnow」のアーカイブ

『瞬間の記憶』

林京子『瞬間の記憶』(新日本出版社 1992)を読む。
著者は2017年に87歳で亡くなっている。長崎での被曝体験を元に数多くの小説を発表され、『祭りの場』で、第18回群像新人文学賞、および第73回芥川賞を受賞している。

この作品は小説ではなく、1977年から92年にかけて新聞や雑誌『世界』や『群像』『新潮』などに発表したエッセーがまとめられている。被曝体験よりも、1981年の東京新聞に掲載された次の一節が印象に残った。

(シンポジウムに参加して)印象深かったのは、選択の情報を用意しながら、一元化が計れる時代でもある、という危険性を指摘した発言である。豊富に選択の材料を用意しながら、心理的にマスへの操作があり得るのではないか。目的をもった情報のなかで選択を強いられ、無意識のうちに集団化している-。情報の受け手である私たちが、最近特に感じていた情報の傾向化なので、怖い指摘だった。この怖さは、無個性時代といわれながら、やはり群れたがる、個性への疑問体と思う。個性派の代表のようにいわれるタケノ子族にしても、あるものから選んでいるだけで、選ぶ個々に、独創性はない。

さらに集団化することで、個人は没個性的になり、逆に、集団としての特色を生み出していく。屈するつもりのない個が集団に抱き込まれて、目的をもった個性になって動き出す。選ぶ目を鍛えねば、また知らぬ間に統制されたマスに巻き込まれてしまう。

「処理水海洋放出準備着々」

本日の東京新聞朝刊に、福島第一原発事故の汚染水の海洋放出に関する意見交換会の様子の記事が掲載されていた。経済産業省側は「今春から夏頃」にかけて放出を開始する前提ありきで話を進めているので、地元の漁業関係者との議論が平行線を辿っているという。

しかし、「ちょっと待てよ」と言いたい。福島県沖から放出された汚染水は亜熱帯循環の海流の流れに乗って北米大陸の方まで流れていくことが分かっている。実際、東日本大震災の津波で流された物がカリフォルニア州で発見されている。

公海に流してしまえば、誰も文句を言わないという発想と、北朝鮮のミサイルがEEZの内外に落ちたことを殊更に非難する姿勢は、いささか矛盾するのではないだろうか。もちろん、北朝鮮政府がミサイルを飛ばすことを良しとしているのではない。  北朝鮮のミサイルに反応するのと同じ熱量で、この福島第一原発の汚染水が議論されなくてはならない。

現在、福島第一原発の建屋に残された燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)を水で冷やし続ける作業が行われている。冷やさないと、どんどん熱が溜まっていき、やがては爆発を起こすからである。しかし、一体事故後、どのような状態で溜まっているのかという確認すらとれていないのが現状である。放射能が強すぎて人間が近づくことができないのだ。だから原始的に水で冷やし続ける作業が10年以上に渡って続いている。その汚染水は1〜3号機合計で1日に100t発生しており、すでに敷地内の処理水タンクの96%が埋まっている。

さきほど「ちょっと待てよ」という言葉を用いたが、「すでに待ったなし」である。燃料デブリを取り出すまであと20年とも30年とも言われる。それまでずっとトリチウムを含む処理水を流し続けるのか。私たちは、北朝鮮の核ミサイル以上に危険極まりない第一原発事故に向き合わなくてはならない。その現実を伝えられる授業を目指したい。

「シリア支援行き届かず」

本日の東京新聞朝刊記事より。
トルコ・シリア大地震で、トルコには各国から支援が入っているが、震災被害が著しいシリア北西部のアザズやイドリアには意図的に支援物資が回っていないという。

アラブの春以降に激化した内戦については授業で触れたところである。
詳細はネットの情報から引用したい。アラブの春やイスラム教内の派閥、シリア内戦の展開など、地理総合の授業を受けた人は理解できるところだろうと思う。こうした記事の背景を理解できるようになると、地理だけでなく、歴史や政治経済の授業も面白くなるはずである。

シリア内戦のきっかけはアラブの春と言われていますが、アラブの春の火種となったのがジャスミン革命という民主化運動です。これは2010年12月にチュニジアで起こっており、その波が中東諸国へ波及しました。

この民主化運動はやがて近隣アラブ諸国へ広がっていき、2011年にアラブの春へと発展。エジプトでは30年続いたムバーラク政権、リビアでは42年続いたカダフィ政権が崩壊します。他にもサウジアラビアやモロッコ、イラク、アルジェリアでも同様の民主化運動が活発化し、この動きはシリアへも広がっていきます。

シリアではアサド大統領による独裁政権が40年にも渡って続いていたため、国民は長年社会経済への不満を抱いていました。そして2011年、アラブの春を皮切りにシリアでも抗議運動が始まりました。

この中心となったのが政権から虐げられていたスンニ派の人々です。

スンニ派を中心とした抗議運動はシリア全土に広がり、シーア派を主とするアサド政権政府軍とスンニ派を主とする反政府軍との間で内戦へと発展したのです。

『男と女のすれ違いはすべて言葉で起こっている』

バーバラ・アニス+ジュリー・バーロウ『男と女のすれ違いはすべて言葉で起こっている』(主婦の友社 2003)を読む。『話を聞かない男、地図が読めない女』と同じような内容で、具体的な場面で男女の違いを説明している。男女とも100%男性、100%女性を想定して書かれており、いささかステレオタイプだが、読み物としては面白かった。

議論で一番大事な点はというお題に対して、男性は「それは、事実、数字、念入りな理論だよ」と答える。一方女性は「それは、個人の体験、他人の体験でしょ」と答える。商品の広告なども男性向けはスペックが重視され、女性は体験談が重視されるなどの違いに表れている。

「韓国の出生率 過去最低0.78に」

本日の東京新聞朝刊に、2022年の韓国の合計特殊出生率が過去最低の0.78となった件が報じられていた。合計得出生率とは15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したものであり、現在の医療体制で人口を維持するには2.1必要とされている指標である。記事によるとBRICSを除く先進38カ国が加盟する経済協力開発機構(OECD)加盟国で10年連続最低の記録だという。

授業中に触れたが、韓国の出生率の低下にはいくつかの要因がある。一つは住環境の悪化である。韓国は1970年代から80年代にかけて急激に首都ソウルに人口が集中したので、映画『パラサイト 半地下の家族』で描かれたように、家族がそろって生活できる空間が極端に少ない。

また、序列を重んじる儒教精神が強いため、親>子、父親>母親という価値観が、結婚を意識する若者に忌み嫌われている。北朝鮮との戦争状態が継続(終戦ではなく、休戦状態)されているため、徴兵制があることも、結婚を遅らせる要因となっている。

また、経済規模に比べ国内の市場が狭いため、財閥を中心とした一部の輸出産業に経済全体が依拠している歪んだ経済構造となっている。そのため、並の大学を出ても就職が覚束ないので、日本の比ではないほど学歴社会となっている。塾や習い事などの教育費の負担も出生率を押し下げる要因となっている。

韓国の事例や取り組みから学ぶことはたくさんあり、来年度の授業の中で生かしていきたい。