堺屋太一『日本を創った12人』(PHP新書 前編1996、後編1997)を読む。
現在の日本社会につながる日本人観を形成したとされる12人を取り上げながら、現在の官僚がはびこる社会体質に堺屋氏お得意の批判を加えている。堺屋氏が取り上げた人物は、聖徳太子、光源氏、源頼朝、織田信長、石田三成、徳川家康、石田梅岩、大久保利通、渋沢栄一、マッカーサー、池田勇人、松下幸之助の12人であるが、この中で松下幸之助だけが場違いなおもむきだが、まあPHP新書ゆえに仕方ないところであろう。それにしても源頼朝が大臣よりも事務次官が権力を握る現在の官僚制度の「二重権限構造」を創ったという指摘や、日本人の国際感覚の欠如は徳川家康の個性に帰着するものだとする発想はあまりにぶっ飛んでいて逆に爽快感すら感じる。歴史学的な裏付けはほとんどないが、人物像が浮かび上がるように書かれており歴史小説として読むと大変興味深い。
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『ピアノの誕生』
桐朋音大教授西原稔『ピアノの誕生:楽器の向こうに「近代」が見える』(講談社 1995)を読む。
先日卒業した生徒の保護者から頂いた本である。ピアノという非常に手間ひまのかかる工業製品の発達と、流通の過程を丁寧に解説している。現在ピアノは完全な趣味の範疇にカテゴライズされるが、自動車が発明された20世紀初頭までは、中流階級以上であることを示すステイタスシンボルであった。そしてちょうど自動車と同様に、ピアノもイギリスの職人によって発明され、ドイツ人の手によって改良され、アメリカの大衆化社会に受け入れられ、そして、日本でベルトコンベアでもって組み立てられる大量規格製品として完成をみた。20世紀のモータリゼーションを牽引したフォードシステムが出来上がる50年も前に、モデルチェンジを繰り返しながら消費者に新しさと購入意欲をアピールする消費資本主義的商法が展開されていたという指摘は大変興味深い。世界史のサブテキストとして読んでみると面白いかもしれない。
イギリスには絶えざる技術革新を可能にする工業力があり、近代的な機械工学の発展がこの新しい楽器の登場を支える背景にあった。そもそも力を弦に伝える複雑な内部機構、より張りのある音を実現する張力と強度のある弦、低弦では弦にさらに別の弦を巻きつけて強度を高める技術、そうした強度に耐える鉄のフレーム、ハンマーの改良、これらのどれをとっても近代工業の発展なしに考えることはできない。されにイギリスには、工業生産された「商品」を販売できる「販路」が確立されていたのであった。(p44)
ドイツがその廉価で優秀な製品をイギリス本国はもとより、イギリスの植民地地域にまで積極的に販売して、かつてイギリスが堅持していたシェアを奪っていく過程は、戦後、日本の自動車メーカーがアメリカ市場に進出していった過程と非常によく似ている。工業力は高まったきたものの、まだ国内でピアノを大量に消費できるほどの購買力のなかったドイツでは、国外に販路を見出すことが急務とされたのである。(p73)
ピアノは近代市民社会においてもっとも富を象徴するものであるとともに、おそらく国力の象徴でもあった。それは複雑な工程をへて一つの楽器を完成させるための総合的な工業力であると同時に、そのようにして製作された製品を売る販売力である。ピアノの発展を見ていくと、その国の工業力および製品販売力の発展の段階を示すいくつかの指標のようなものがあるように思われる。(p67)
『向日葵の若者たち』
鈴木静子『向日葵の若者たち:障害者の働く喜びが私たちの生きがい』(本の泉社 1998)を読む。
著者は埼玉県川口市にある千代田技研というアルミや亜鉛のダイキャスト鋳造の会社の社長を営んでいる。千代田技研では20年前から就労の難しい知的障害者を多数受け入れ、障害者と共に働く喜びを社員全員で共有している会社である。特に知的障害というと簡単な軽作業しか出来ないと一般に考えがちであるが、この千代田技研では障害者の正確な作業と真面目な勤務態度を正当に評価し、難しい機械のコントロールを任せている。また障害者自身が指導者となって後輩の面倒も見ているそうだ。得てして福祉の世界では、自らの力でお金を稼ぎ、自ら自立して生活するという生活の基本が二の次にされてしまうことが多い。障害が重ければ重いほど、保護の対象となってしまう。しかし、学校を卒業して家でぶらぶらしていることほどつらいものはない。どんな形であれ(勿論人間としての最低限の保障はなされた上で)卒業後の就職、勤労意識による人間的成長の場を設けなければならない。
著者はそのような状況を踏まえ、障害者の指導に当たる公的な専門員の制度を提案する。障害者の対応に長けている専門員が、一定期間、企業で障害者の教育、指導に当たってくれたら、ますます障害者を受け入れる企業が増えていくだろうと述べる。著者の言うように、人生の大半は働かなくてはならないのであり、障害者のスムーズな就職を支援する掛け橋のような専門員が求められるのは言うまでもない。
『合格だけを考えろ:試験必勝100の心得』
成川豊彦『合格だけを考えろ:試験必勝100の心得』(ダイヤモンド社 1995)を読む。
成川氏は司法試験予備校で有名な早稲田セミナーの創設者である。その著者が主に何年も司法浪人を続ける受験生を想定して、合格の秘訣を説く。著者は司法試験だろうと、公認会計士の試験だろうと、難関大学受験だろうと、そもそも受験なんてものは「情報整理能力試験」でしかないと断じる。そして、要するに、出題の可能性の高い範囲をいかに効率良く整理し、理解して暗記するか。そして、それをどれだけ正確に答案用紙に再現できるかを競う、いわば情報整理の技術コンテストなのであると述べる。
また、著者は難関試験の競争率について、実質競争率は50%であると述べる。つまり、競争率何十倍と言っても、その半分は試験の概要すら知らないビギナーであり、さらに、残りの半分の大半は何度も落ちつづけているベテランであり、結局、実質の合否の差は、今年受かるか、来年受かるかの50%なのである。だからこそ、試験を受ける前に合格を確信し、慌てることなく直前まで基本の整理を怠るなと述べる。
そして試験内容の理解の仕方については、覚えた内容をもう一度ビジュアル化したり、図式化したりして、知識が完全に理解できているかどうか確認すべきだと述べる。


