『くたばれ!専業主婦』

石原里紗『くたばれ!専業主婦』(光文社知恵の森文庫 2003)を読む。
現在の年金制度の改悪に歩を合わせるように、収入のない専業主婦は「ただの無職であり、ダンナに寄生するカチク以下の立場であり、働く人すべてから搾取する、社会の粗大ゴミのような存在」だと過激な言葉のみが踊る内容のない文章が続く。男性の作者であれば、クレームが集中するところだが、女性の、そして元主婦による執筆という建前なので質が悪い。読後感の悪い作品であった。

『蟲』

坂東眞砂子『蟲』(角川ホラー文庫1994)を読む。
古代の神の化身である虫が人間の体を巣食い、人間の心を餌に体内で蛹になって成長していくという、『パラサイトイブ』に類似した設定のホラーである。夫と妊婦のぎくしゃくした関係の中にすっぽりと古代の「常世虫」が入り込むのだが、やがて夫婦関係をお互いに「無視」する間柄ねじ曲げ、そして人間は心を食べられてしまうことにより、「無私」な境地に入っていく。その間の夫婦同士の会話や心情を丁寧に描いており、単なるホラー作品には終わっていない。

『インドIT革命の驚異』

榊原英資『インドIT革命の驚異』(文春新書 2001)を読む。
ミスター円こと榊原氏の名前が冠してあるが、内容の大半は慶応大学グローバルセキュリティ・リサーチセンターの研究員によるものである。工業化=近代化という経済発展の公式を打ち破り、農業改革から突然情報産業の重点化へとシフトを移しつつあるインドの現状を分析しながら、グローバリゼーションの進展を概観しようとするものだ。日本ではちょうどバブル崩壊後の、輸出産業の行き詰まりの果てに、IT革命と軌を同じくしてグローバリゼーションがやって来ており、ごく自然に受け入れられた感がある。しかしインドでは都市のごく一部の英語の使える富裕層にのみグローバリゼーションの恩恵がやってきており、新たな「カースト」制度が生み出されてしまう危険性がある。

『青春論』

亀井勝一郎『青春論』(角川文庫 1962)を読む。
1956年の週刊読売の「若い河」という欄に連載されたコラムとその前後に書かれた短文がまとめられている。亀井氏は戦前は中野重治と同じプロレタリア作家同盟の出身であるが、「転向」後は「日本浪漫派」の一員として、日本古来の寺社や伝統に回帰して、中野とは別の方向を歩んでいくことになった。しかしあるべき理想社会が共産主義国家なのかそれとも別の方向なのかという違いこそあれ、現実社会の耐えざる変革が必要であり、そうした変革のエネルギーは若人に宿っているという考え方は同じである。憲法改「正」の問題についても米国追従型のなし崩し的な軍備拡大が青年の徴兵制度につながるという点から明確な反対を述べている。そしてつぎのような言葉で締めくくる。

近いうちにありうるかもしれぬ憲法改正は、日本の理想と日本の倫理のために危険である。「現実的」という言葉をよく使うが「現実的」という名目で「現実」の奴隷になってはならない。