第97回直木賞受賞作、山田詠美『ソウルミュージック ラバーズオンリー』(角川文庫 1987)を読む。
彼女の初期の頃の作品であるが、体の結びつきを武器にする男女のすれ違いがテンポよく描かれていた。セックスを愛情表現として捉えるのか、性欲行為として捉えるかといったもどかしさが底流に流れるようなステレオタイプな恋愛小説ではない。セックスは男性にとって征服欲を満たすものであるが、同時に女性にとっても支配欲を満たすものである。女性にとっての支配欲といったものがどこに依拠するのかという問題は単に性欲だけの問題ではない。女性を巡る様々な社会状況に帰していく問題である。
しかし山田詠美さんはそこまではっきりとは述べない。男の征服欲を飲み込んでいくだけの女の「存在感」をひたすら示すだけである。安易な捉え方をするならば女版寺山修司といったところか。
『ソウルミュージック ラバーズオンリー』
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