地域福祉法第4条は「福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み,社会・経済・文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が与えられるように,地域福祉の推進に努めなければならない」と定めている。つまり,障害がある人も地域社会において障害のない人と同様に生活ができるノーマルな社会に向かって,要支援者を一人のトータルな生活者としてとらえる視点を持って,要支援者に対する様々な関わりを統合化していくことである。そして,そのような環境を作っていくにあたって,行政や福祉団体だけでなく,地域社会に暮らす住民の主体的な参加が可能な土壌が求められている。つまり,単に障害者の理解や思いやりを教育や地域で育むのみならず,国民一人一人が基本的人権を尊重し,日本国憲法に定める平等権や幸福追求権の主旨を理解し,傍観者的な態度ではなく,行動する力の育成が求められるということだ。
地域においては,これまでの山奥の入所施設に閉じこめておくような「効率的」な福祉サービスではなく,今まで住んでいた地域で,できるだけ在宅を基本としたサービスが求められる。2005年に衆院で可決をみた障害者自立支援法案の第1条は「この法律は、障害者及び障害児がその有する能力及び適性に応じ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、必要な障害福祉サービスに係る給付その他の支援を行い、もって障害者及び障害児の福祉の増進を図るとともに、障害の有無にかかわらず国民が相互に人格と個性を尊重し安心して暮らすことのできる地域社会の実現に寄与することを目的とすること」と定められている。
学校教育においては,文科省と厚労省の壁が反映してか,「福祉」という言葉は意識的に使われていない。福祉ではなく,「道徳」という言葉が通常用いられる。1998年に文科省が告示した学習指導要領では,道徳教育について「道徳教育は教育基本法及び学校教育法に定められた教育の根本精神に基づき,人間尊重の精神と生命に対する畏敬の念を家庭,学校,その他社会における具体的な生活の中に活かし」,「家庭や地域社会との連携を図りながら,ボランティア活動や自然体験活動などの豊かな体験を通して生徒の内面に根ざした道徳性の育成が図られるよう配慮しなければならない」と述べられている。そして,現行の学習指導要領では,教育課程の編成において,「盲学校,聾学校,および養護学校との連携や交流を図るとともに,障害のある児童生徒や高齢者などとの交流の機会を設けること」と定められている。
求められる福祉教育とは,知識として障害者や高齢者の姿を理解することではない。障害者や高齢者と健常者が共に文化的で健康的な生活を営むことができるような社会を作っていける「道徳性」を養うことである。
参考文献
一番ヶ瀬康子監修『教科書社会福祉』一橋出版,1997年