高齢社会の逼迫と福祉多元化の時代を迎え、1987年に「社会福祉 士及び介護福祉士法」が制定され、社会福祉現場の専門職の社会的評価の向上や労働条件の改善などが図られることになった。最近では福祉に興味を持つ中学生や高校生も増えてきている。しかし医者、ケアマネ、理学療法士、作業療法士、養護学校教員など福祉に携わる専門家が数多くいる中で、社会福祉士の専門性はどこに求められるのであろうか。
「社会福祉士法」の中で、社会福祉士とは「専門的知識及び技術をもって、身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うことを業とする者」と定義されている。端的に言えば、支援を必要とする者の福祉を扱うのが社会福祉士である。
その「福祉」とは分かりやすく言えば、人間が人間らしく生活することである。そのためにまず必要なことは、衣食住などの生きる上で必須な日常生活要求を満たすことである。しかし、それだけでは人間らしいとは言えない。人間らしく生きていくためには仲間が必要である。家庭生活を営みたい、職場で役割を果たしたいなどの社会的な要求である。さらに人間には健康で日々楽しく生きていくための文化的要求もある。自分に適した教育を受け、深い学習がしたい、また思い切ってスポーツや芸術を楽しむということも人間には必要である。
またそうした個人の生活の前提には地域社会という受け皿がある。戦後、一貫して行政主導の福祉が展開されたが、介護保険制度導入後、企業やNPOやNGOなどの非営利非政府組織が住民サイドに立った多様な福祉サービスを展開している。またこれまで普通学校とは別の特殊な場で行われてきた特殊教育も普通学校や地域の施設、福祉サービスと一体となって展開される特別支援教育へ移項しつつある。これらの福祉サービスの機能的有機的な連携が模索されている。
社会福祉とは以上のように、個人の基礎的な要求、社会的な要求、文化的な要求を全面的に実現することであり、そしてその実現に向けた福祉全般に携わることである。個人の救済や貧困からの脱出という狭い解釈をしてはその目的を見誤ることになる。
1986年に策定された日本ソーシャルワーカー協会の倫理綱領には「われわれソーシャルワーカーは、平和擁護、個人の尊厳、民主主義という人類普遍の原理にのっとり、福祉専門職の知識、技術と価値観により、社会福祉の向上とクライエントの自己実現を目指す専門職であることを言明する」と謳われている。つまり社会福祉士にとって必要な専門性は社会保障制度の知識や介護技術だけではなく、人間らしい生活と多彩な人間関係、豊かな地域社会を目指して、利用者の生活を再組織化し、社会の連帯を促すところにある。
参考文献
一番ヶ瀬康子・伊藤隆二監修『教科書 社会福祉』一橋出版、1997年
一番ヶ瀬康子『新・社会福祉とは何か』ミネルヴァ書房、1990年