『いじわるペニス

内藤みか『いじわるペニス』(新潮社 2004)を読む。
刊行当時流行った「ケータイ小説」に括られる作品である。しかし、過激なベッドシーンの合間に、ゲイを相手にしているウリセンボーイに「恋愛」を求めてしまう主人公の女性のアイデンティティの問題が描かれる。

由紀哉と私。
売る男と買う女。
本当なら、たった一晩だけの後腐れない関係のはずなのに、私が「恋愛」を彼に望んでしまっていたのだ。
もともとないところに無理矢理「愛情」とか「信頼」とかを置こうとしたから、たくさんの歪みができた。
由紀哉の冷たさが不安で哀しくて、だからわたしはセックスに望みを集中させていた。
いやというほど突かれまくれば「愛されている」と錯覚することができる。
白くて熱いどろりとしたものを私の下腹部に流し込んでくれれば、それが彼の愛だと女の身体は勝手に解釈する。セックスの悦びは、愛されていないかもしれないという不安を一気に消してくれる。だから、私は由紀哉としたかったのだ。
ほんとうは。
セックスなんてなくてもよかった。由紀哉が、私を心底愛してくれているのであれば。
由紀哉が、愛おしそうな瞳で私を見つめてくれていれば、時々、宝物に触れるような手つきで、そっと私の髪に触れてきてくれれば。
本当は、それだけで、充分私は、満足だったのに。大事にされて、いたわられれば、女なんてそれで、満足できるのに。

正規料金以外のお金を渡してもプレゼントを与えても「私」に関心を向けず、性的サービスをしても全く勃起しない由紀哉に対して、「私」は心の中で次のような言葉を囁きかける。

ねえ、私に欲情してよ。
勃ってよ。私を、認めてよ。

ある意味ナイーブな男性のペニスの勃ち具合で、女性の評価が左右されてしまう怖さが潜んでいる。