松本清張『ゼロの焦点』(新潮文庫 1959)を読む。
戦後から12,3年経った昭和32,33年,戦後の混乱期と高度経済成長期の端境期を象徴するような連続殺人事件が起こる。
数ヶ月ぶり(数年ぶり?)に時間を忘れて読書に耽った。物語の舞台となった北陸の道路地図帳を片手に,金沢,七尾,羽咋,和倉,鶴来などの場所を確認しながら旅情気分を味わうことができた。米軍立川基地やパンパン,電報,交換局など,当時の時代を象徴する単語の登場も興味深かった。
また,文庫本の解説で評論家平野謙が筆を執っている。以下の彼の短い文章であるが,この作品の概要を的確に説明している。
一個の文学作品としてみた場合,『ゼロの焦点』は失敗作かといえば,決してそんなことはない。推理小説としては多少の隙間があるとしても,一個の文学作品としてはやはり松本清張の秀作のひとつだ,というのが私の意見である。一口にいってオキュパイド・ジャパンとい未曾有の社会的混乱のなかから派生したひとつの社会的悲劇を,一見非凡な会社員の失踪という事件に具体化した作者の着眼がすぐれており,その着眼を歩一歩と現実化してゆくプロセスもまたすぐれている。