宇江佐真理『うめ婆行状記』(朝日新聞出版 2016)を読む。
江戸時代の日本橋界隈を舞台にした人情物の小説である。最初手にした時は全く気に乗らなかった本であるが、数ページ読んだだけで、主人公のうめ婆にどんどん惹き込まれていった。最後の方では、うめ婆の注意や人生観がグサグサと刺さってきた。江戸時代の武家だけでなく商家でも、女性という立場の生きにくさをモチーフにしているのだが、うめ婆は一人の女性として率直に嬉しいこと嬉しいといい、ダメなことは徹底してだめという。時代を超えて素直に生きるということが素晴らしいことなんだと著者は訴える。
本書は2016年1月から朝日新聞夕刊に連載されていた小説である。しかし途中で著者が乳癌で亡くなったため、未完のままとなっている。著者の宇江佐さんは1949年の団塊世代である。兄弟・親戚で溢れていた団塊世代ならではの人付き合いの経験が作品にも色濃く滲み出ている。
1年に1回あるかないかの素晴らしい読書体験だった。