月別アーカイブ: 2020年5月

「出稼ぎ激減 欧州農家直撃」

本日の東京新聞朝刊に、新型コロナウイルスの感染拡大のため、東欧からの出稼ぎ労働者が減り、フランスやイタリアの農家の人手不足が深刻化しているとの記事が掲載されていた。

EUは域内の人の移動が自由化されているため、特にポーランドやルーマニアといった東欧の旧社会主義国の労働者が、賃金の高い西欧諸国で働く出稼ぎが常態化している。そのため、イギリスでは安価な労働力の流入によって自国民の失業率の上昇、社会保障費の負担増などの社会不安が高まり、EU離脱という道が選択された。

地理の「公式」といってもよいのだが、宗教や体制の如何を問わず、労働力の移動は、一人あたりのGNI(国民総所得÷人口)が低い国(地域)から高い国(地域)へ流れていく。統計や年度によって差はあるが、一人あたりのGNIは、日本が約40,000ドルである。ドイツが47,000ドル、フランス、イギリスが43,000ドル、イタリアが35,000ドルほどである。一方、ポーランドは15,000ドル、ルーマニアは12,000ドル、ブルガリアは9,000ドルとなっている。

現在、西バルカン諸国のセルビアや北マケドニア、アルバニアなどがEU加盟手続きを進めている。セルビアの一人あたりのGNIは7,000ドル、北マケドニアは6,000ドル、アルバニアは5,000ドルとなっている。セルビアなどはEU加盟を熱望しているとのことだが、西欧諸国が難色を示している。これらの国がEUに加盟したら、ポーランドやルーマニア同様、出稼ぎ労働者が急増するであろう。医者や技術者などの国外移住が増えると、移民を送り出す側の経済発展や医療制度の維持に支障を来たす事態となり、EU加盟は諸刃の剣となっている。

「新型コロナ発生源」

本日の東京新聞朝刊に、新型コロナウイルスの発生源を巡って、オーストラリアと中国の関係が悪化しているとの記事が掲載されていた。

オーストラリアというとコアラやカンガルー、ラグビーなどのイメージが強い。英語圏のオーストラリアと中国の関係と言われてもピンと来ない人も多いでしょう。確かに1960年代まで、オーストラリアの最大の貿易相手国はイギリスでした。入植以来、経済的・文化的にイギリスの影響を強く受けてきました。しかし、1973年にイギリスのEC加盟を契機として両国間の貿易は次第に減少していくことになります。

そして、1989年にオーストラリアの働きかけによってアジア太平洋経済協力会議(APEC)が結成されると、域内の貿易や投資の自由化・円滑化が促進され、経済・技術協力だけでなく、参加国間の安全保障や気候変動問題などについても話し合いがもたれている。APEC発足後、オーストラリアはますますアジア諸国との結びつきを強め、特に中国や韓国から多くの留学生を受け入れるまでになっている。

こうした情勢の中で、オーストラリアと中国との関係が険悪になるというのは好ましいものではない。特に日本はオーストラリアに鉄鉱石や天然ガスなど多くの資源を依拠している。アジア諸国を代表する大国としてアセアンとの連携を密にしながら、中国とオーストラリアの関係を取り持つような外交手腕を期待したいところである。

「雇用悪化 揺れる支持者」

本日の東京新聞朝刊に、新型コロナウイルスの感染拡大による米国の経済悪化で、「ラストベルト」地域の労働者が、トランプ大統領への信任を迷っているとの記事が掲載されていた。

「ラストベルト」とは、記事にある通り、五大湖沿岸のミシガン州(中心都市:デトロイト)、ウィスコンシン州(同:ミルウォーキー)、オハイオ州(同:クリーヴランド)、ペンシルベニア州(同:ピッツバーグ)の地域を指す。この4州は共和党のトランプ大統領の政治経済対策に対する期待が強い。「アメリカファースト」を掲げ、フォードやGM、クライスラーなどの旧来の自動車産業を保護し、ヒスパニック系移民の排斥を掲げるトランプ大統領の政策に肩入れする理由について、以下の教科書の解説を読んで欲しい。歴史的背景も含めて、きっちりと説明されている。決して手抜きではありません(笑)。

昨年度の授業では、ベルトコンベア式のフォードシステムに対するアンチとして、チャップリンの映画『モダンタイムス』の一場面を紹介しました。

 

以下、帝国書院「新詳地理B」教科書のP302より(カッコ内は私の追記)

 大西洋沿岸のメガロポリス(「巨帯都市」とも訳されます)から五大湖沿岸にかけての地域は、20世紀前半まで、重工業を中心とした経済発展の舞台であった。メサビ(安定陸塊に位置する)などの鉄鉱石とアパラチア炭田(古期造山帯に位置する)など、豊富なエネルギー・鉄鉱資源が水運で結びつけられ、国内最大の工業地域が形成された。オハイオ州上流部のピッツバーグは「アメリカのバーミンガム」とよばれ、19世紀から20世紀前半にかけて、鉄鋼業の中心地として繁栄した。鉄鋼は工業発展の原動力であり、鉄道交通の発達や自動車産業の基盤となった。デトロイトは自動車産業の中心地として代表的な工業都市となり、世界有数の自動車メーカーが本拠をおいた。また、油田開発により自動車燃料のガソリンが確保されたこと、さらに、移民の労働力やすぐれた技術、巨大な資本に恵まれたことも工業発展の要因となった。
しかし、第二次大戦後、ヨーロッパ(授業では「青いバナナ」と習う)や日本で工業化が進むと、それまでこの国経済を支えてきた鉄鋼業や自動車産業は、厳しい国際競争にさらされた。技術革新や品質管理の遅れ、労働者の高い賃金、ドル高による国際競争力の低下などのあいまって、この伝統的な工業地域では、工場が閉鎖され、失業者が増大した。この地域はスノーベルト(注)とよばれ、産業構造の変化を象徴する存在となった。また、こうした産業構造の変化を受けて、多くの製造業の企業は賃金の安いメキシコなどへ工場を移転し、多国籍化した。その結果、国内では雇用が減少し、産業の空洞化が問題となった。

(注)北部の伝統的な工業地域は、サンベルトと対比して、こうよばれるようになった。ここでは工業が衰退してきたので、ラスト(さびついた)ベルトとよばれることもある。

『快適自転車ライフ』

疋田智『快適自転車ライフ』(岩波アクティブ新書 2002)を読む。
疋田氏の著者は何冊か読んだが、本棚に眠ったままで読みそびれていた。自転車ツーキニストとして目覚めた頃の著書で、自転車の種類や海外の事情、自転車を活用した都市のあり方など、以後の著者の活動の原点とも言えるような内容となっている。
印象に残ったところを引用しておきたい。

心拍数は上がる、汗はしたたり落ちる。だが、それと同時にたとえようもない爽快感が身体の奥底から沸沸と沸き上がってくる。
目の前の風景が思考と同じスピードで流れていく。自分の力だけが推進力でありながら、自らの素の力を遥かに超えたスピード感。風と匂いと気温が、むき出しの顔と手と足を撫でていく。それらの快感がこんなに安価に身近に得られるということ。
そして、適度な緊張感の中で、色々な考えが頭の中を行き来する。思い悩んでいたことにふっと解決の妙案が浮かんだりもする。雨の中を哲学的になったりもする。色々なアイデアがライド中に浮かぶ。
これは私の個人的なことだが、私は活字、映像を問わず、原稿や構成のアイデアを常にサドル上で得る。自転車の楽しみはスポーツの愉しみというのと同時に、ある種、知的なものなのかもしれない。