月別アーカイブ: 2020年3月

『天才』

石原慎太郎『天才』(幻冬舎 2016) を読む。
元東京都知事の石原氏が、かつての政敵であった田中角栄の自伝を一人称で綴る冒険作である。多分に石原慎太郎自身の政治観が滲み出ており、日中共同声明や独自の資源外交を展開した才気あふれる政治家田中角栄に対し、米国がロッキード事件を契機に潰しにかかったという流れとなっている。後書きの中で、著者は現在も米国の植民地状態となっている日本で、田中角栄という天才政治家の存在感を表したと述べている。

戦前の政治家になる前の少年、青年期の話は興味深かった。

『コンビニ店長』

日下忠『コンビニ店長:24時間営業中』(二見文庫 2017)を読む。
男性向けの官能小説で、コンビニのシーンからなんの脈絡もなく濡れ場の場面に突入する。徐々に盛り上がっていく過程がすっぽりと抜け落ちてクライマックスの描写だけが連続するので、ちょっと付いていけなかった。アダルトビデオを無理やりノベライズさせたらこんな感じだろうか。

『目で見る仏像・天』

田中義恭・星山晋也編著『目で見る仏像・天』(東京美術 1987)を読む。
「天」とは、そのほとんどが元来バラモン教等異教の神々であって、仏教に採り入れられて、仏法を守護する護法神とされたものである。これらの神々が天上界に住んでいるところから天の名称がつけられたと言われている。天の中には梵天、帝釈天、四天王などのようにインドにおいて早くから仏教に取り入れられたものも多い。

不殺生を旨とする元来の仏教とは異なり、金剛力士や四天王、毘沙門天、十二神将など、戦いの神が多いのが特徴である。また、鬼子母神や、毘沙門天の妃である吉祥天、梵天の妃ともされる弁才天など、女性を象徴した神も多い。さらには、象同士が抱き合った歓喜天や、恵比寿さまとしても知られる大黒天、閻魔王など、癖のある神が名を連ねる。

『デッドライン仕事術』

吉越浩一郎『デッドライン仕事術:すべての仕事に「締切日」を入れよ』(祥伝社新書 2007)を読む。
トリンプ・インターナショナル・ジャパンの代表取締役に就任してから、19年連続増収・増益に導き、現在経営コンサルティング分野で活躍する著者が、得てして長時間をかけることが仕事だと勘違いしている日本に仕事文化そのものに対して異議を唱える。

本書の中で、仕事を効率的にかつ大胆に仕事を進め、ワークライフバランスをはかる職務上のノウハウを指南する。就業時間だけでなく一つひとつの仕事にデッドラインを儲け、日常業務だけでなく様々なプロジェクトも可視化し、具体化させていくことで、効率化を図るというものだ。また、リーダーは常に現場の中で情報を共有し、部下の意見を「選択」することで判断を早くしていくことが求められると述べる。

「仕事」の対極は「休み」ではなく、「遊び」だという著者の仕事観が印象に残った。また、効率的に情報を共有し、判断を早くしていくことで、熱意ある部下に仕事を任せ、

人事部や経理部などの仕事は部署全体の目標が数値化されないので、何をいつまでにやるのかが曖昧になりやすい。たとえば「今月は社内の整理整頓を心掛けよう」という目標を掲げても、それだけでは何にデッドラインをつけていいのかわからない。では社員に、「何月何日までに整理整頓を終えてください」と申し渡しても、そんなものは何も指示していないのと同じだ。
しかし、それでも作業を具体化させることはできる。「整理整頓」というだけでは抽象的な概念にすぎないが、それが何を意味しているのかを一つひとつ検討すれば、必要な仕事が明確になるだろう。
各自のデスクの上、資料の書類、廊下に放置されたダンボール箱など、整理整頓すべきポイントをどの程度まで片付ければいいのかを考えれば、それぞれの作業にデッドラインを設定することができる。
そうやって具体的な形にブレイクダウンしないと、抽象的な目標は単なる掛け声だけに終わってしまう。たとえば事故を起こした鉄道会社や遊園地などは、「安全第一」という目標が具体化されていなかった可能性が高い。
ジェットコースターの故障で死者を出してしまった会社も、おそらくは日頃から「安全第一」と言っていただろう。しかし、その目標を達成するために「何を、誰が、いつまでにやるか」ということが可視化されていなかったのではないだろうか。

『対岸の彼女』

第132回直木三十五賞受賞作、角田光代『対岸の彼女』(文藝春秋 2004)を読む。
対人関係に不安を持つ主人公の葵や小夜子たちが、仕事や保育園ママとの付き合いを通して、悩みながら社会や自分と折り合いを付けていく。
男性と比べ、女性は結婚しているか否か、子どもがいるか否か、働いているか否かで、大きく価値観や社会的ステータスが変わってくる。学生時代は同じ価値観や感覚を共有していても、結婚や出産、仕事でバラバラになっていく女性を取り巻く人間関係がテーマとなっている。

男性の自分が読んでも、グループやカテゴライズから外れて、一人の女性が生きていくことの難しさを感じた。途中から読むのを止められなくなった。
旅行会社を立ち上げた主人公の葵が小夜子に語るセリフが印象に残った。

旅行ってさ、 to see と to do って二種類あるわけね、周遊して遺跡や博物館なんかを見るものと、お祭りなんかに参加するものと。だけど大前提に to meet ってのがないと話になんないよね。異国って「ここ」とは違うじゃない。人はみなわかりあえるとか、人間なんだから同じはずとか、そういうのは嘘っぱちで、みんな違う。みんな違うってことに気づかないと、出会えない。マニュアルってのは、あれしなさいとか、これが常識だって説明するだけで、違うって感覚的にわかることを邪魔するんだと思うんだ