『対岸の彼女』

第132回直木三十五賞受賞作、角田光代『対岸の彼女』(文藝春秋 2004)を読む。
対人関係に不安を持つ主人公の葵や小夜子たちが、仕事や保育園ママとの付き合いを通して、悩みながら社会や自分と折り合いを付けていく。
男性と比べ、女性は結婚しているか否か、子どもがいるか否か、働いているか否かで、大きく価値観や社会的ステータスが変わってくる。学生時代は同じ価値観や感覚を共有していても、結婚や出産、仕事でバラバラになっていく女性を取り巻く人間関係がテーマとなっている。

男性の自分が読んでも、グループやカテゴライズから外れて、一人の女性が生きていくことの難しさを感じた。途中から読むのを止められなくなった。
旅行会社を立ち上げた主人公の葵が小夜子に語るセリフが印象に残った。

旅行ってさ、 to see と to do って二種類あるわけね、周遊して遺跡や博物館なんかを見るものと、お祭りなんかに参加するものと。だけど大前提に to meet ってのがないと話になんないよね。異国って「ここ」とは違うじゃない。人はみなわかりあえるとか、人間なんだから同じはずとか、そういうのは嘘っぱちで、みんな違う。みんな違うってことに気づかないと、出会えない。マニュアルってのは、あれしなさいとか、これが常識だって説明するだけで、違うって感覚的にわかることを邪魔するんだと思うんだ