月別アーカイブ: 2020年1月

『ピケティ入門』

竹信三恵子『ピケティ入門:『21世紀の資本』の読み方』(金曜日 2014)を読む。
ピケティの経済の専門書『21世紀の資本』をばっさりと要約した上、日本の格差拡大の現状分析に用いるという内容で、知ったかぶりをしたいだけの私にぴったりの著書であった。

ざっくりまとめると、ピケティはある国の資産の蓄積度を「資本/所得比率」で計算し、さらに、「貯蓄率/経済成長率」が資産の蓄積度と一致することを明らかにしている。そして戦争時を除いて、経済成長率よりも貯蓄率の方が上回るため、資産の蓄積度は自然と上昇していく。そこで、格差を縮小する相続税や所得税といった税制やインフレ政策が必要だと説く。

金持ちがますます金持ちになり、貧困層が固定化されてしまう現代社会に対し、ピケティは、所得税の累進税率の強化を訴える。しかし、それだと税率の低い国へ企業も資産家も逃げてしまう。そこで、ピケティは住宅や不動産、金融資産などすべての資産に対し、世界的なネットワークで課税する「世界的資本税」を提案する。

日本も累進課税の引き下げにより、資本/所得比率が上昇している。1970年には3だったものが、1990年には7に増加している。「成功者は高所得を貰って当然」とか「貧困は自己責任」といった感情的な格差論を廃し、制度的に格差を縮小していく一歩を歩み出していくべきだと著者は述べる。

『京大芸人式日本史』

菅広文『京大芸人式日本史』(幻冬舎 2014)を読む。
お笑い芸人ロザンの著者が、縄文時代から第二次世界大戦までの各時代をタイムワープして、それぞれの時代の有名人と会話をするという内容である。「ノリ・ツッコミ」の漫才で話が展開していくので、一気に読み終えた。

歴史上の人物や文化を扱うのではなく、土地制度や税制、政治制度を説明しているので、歴史の勉強にも役立つ。

おおざっぱに言うと日本史の流れは1つだ。
それは「土地は誰のものですか?」である。

幕府が265年も続いた要因のいちばんは、ある決まりごとを作ったからだと思う。それは禁中並公家諸法度だ。この決まりごとは今までの歴史にはない。えらいさんを取り締まることが出来るルールだった。

『教室の亡霊』

内田康夫『教室の亡霊』(中公文庫 2013)を読む。
群馬県の教員採用試験に絡む殺人事件をご存知浅見光彦が見事に解決する。
人物本位を建前する教員ゆえに、コネが幅をきかせる閉鎖的な構造を白日のもとに晒す。

つい10年ほど前の話なのに、現在の教員人気の落ち込みに比べると、隔世の感を禁じ得ない。

『世界を動かす海賊』

竹田いさみ『世界を動かす海賊』(ちくま新書 2013)を読む。
日本人にとって、海賊というのはいまいち分かりにくいものである。漫画やアニメの印象が強く、時代かかった輩というイメージが強い。

2011年を例にとると、全世界で発生している海賊事件の約54%(240件)がソマリア周辺海域で発生している。海賊に襲撃され乗っ取られた船舶は28隻で、海賊の人質にあった抑留乗組員は470人の上る。
ソマリアは内戦により、無政府状態が長く続き、沿岸警備や国境警備などが手薄になっており、海賊がソマリア海沖の警備役を買って出るようになった。さらに中国製の武器が氾濫するようになり、武装化した海賊が跋扈したという経緯がある。当時の状況を著者は次のように語る。

こうしたソマリアの現状を悪用して、国際犯罪シンジケートが結成され、アフガニスタンーパキスタン周辺国ーソマリアを結ぶ一大密輸ルートが出来上がったと考えられる。具体的には世界最大の麻薬生産国アフガニスタンから、大量の麻薬が陸路で隣国パキスタンや周辺国に運ばれ、ダウ船や貨物船で積み出されたと、英国のBBCニュースは伝えた。同様にパキスタン国内で大量に生産される自動小銃などの小型武器も、海外に密輸された。当時、南アジア諸国の港湾管理は甘いことで夙に有名で、麻薬や小型武器の密輸は日常茶飯事。ここから貨物船で麻薬や小型武器を積み込んだ貨物船は、アラビア海からアデン湾周辺を経由してソマリアに辿り着く。南アジアからソマリアへと、眼には見えない密輸ルートが走っている。これらの密輸に加担していたのも、ソマリア沿岸で外国漁船を摘発していた、プントランドの自称コーストガード関係者であった可能性が高い。

著者は、海賊が武装化している以上、インド洋を横断する船も武装化した警備員を同乗させた方が良いと述べる。幸い、ソマリア海沿岸の海賊に対しては、国連安保理の一致した決議もあり、日本も海上自衛隊を派遣しており、ここ数年で海賊行為は激減している。海賊行為について厳密に定義し、それに対して国連の決議に基づいて行動するのであれば、大きな問題はないと考える。政治判断を行う際は、何事につけてもその対象を厳密に分析することが大事である。

「愛媛ミカン消える?」

本日の東京新聞朝刊に、愛媛県・松山の平均気温の上昇により、ミカン栽培が厳しくなっているとの記事が掲載されていた。秋以降の気温が下がらず、皮と実の間に隙間が出来てしまい商品にならないとのことである。2017年の農林水産省の統計によると、国内のミカンの生産量は、1位が和歌山県で144千トン、2位が愛媛県で120千トン、3位が熊本県で86千トン、4位静岡県82千トンとなっている。
農業・食品産業技術総合研究機構の予測によると、数年後には東北や北陸の一部が温習ミカンの適地となる。果実は様々な種類があるが、栽培から出荷、消費まで大枠の流通ルートが決められているので、リンゴ農家がミカン農家になったり、ミカン農家がグレープフルーツ農家になっても、穀物ほどの劇的な混乱は少ないのかもしれない。
いずれにせよ、温暖化は近未来の話ではなく、日本においても現在進行形の問題だということが理解できる。