日別アーカイブ: 2013年1月2日

パンフレット研究:公立はこだて未来大学

パンフレットを手に取った時は胡散臭い大学だと思っていたが、読み込むにつれて面白さがにじみ出てくる内容であった。教員のMacintoshの所有率が高く、米Pixar社のような自由な雰囲気の大学である。1997年に函館市周辺の自治体が広域で設置した公立大学である。情報システムコース、高度ICTコース、情報デザインコースの3コースからなる情報アーキテクチャ学科、複雑系コースと知能システムコースの2コースからなる複雑知能学科の2学科からなるシステム情報科学部の単科大学である。

このうち複雑知能学科には、多核単細胞生物「粘菌」の情報処理能力の研究で裏ノーベル賞としても呼ばれるイグノーベル賞を2度も受賞した中垣俊之氏の研究室も置かれている。

また、カリキュラムも教養科目や語学科目はすっきりと省かれ、4年間の専門一貫教育の理念が貫かれている。大学院が設置されておらず、学部卒業生の8割近くが就職するという珍しい大学である。また、通常の授業やゼミとは別に一年間掛けて実施されるプロジェクト学習があり、パンフレットでも20以上のワーキンググループが紹介されている。

理系には珍しく大学院が設置されておらず、機械工学や建築工学、応用化学、生命科学といった金のかかる学科はなく、パソコン1台あれば完結するような情報システム学部のみの設置が、自治体への負担も少なく、個性的な改革ができるのであろう。

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パンフレット研究:奈良県立大学

1953年に開学した奈良県立短期大学商経科を母体とし、1990年に4年制の奈良県立商科大学商学部となり、2001年に奈良県立大学と名称を変更し、地域経済学科および観光経営学科からなる地域創造学部が設置されている。
パンフレットを読む限り、偏差値40台レベルの推薦やAO入試が中心の、郊外型女子大学となんら変わりはない。全く体系化されていない教育課程に、ただ「○○文化論」だの「国際〇〇」「観光英語」といった他と関連性のない教養科目がただ並べられている。一応「地域づくり」や「奈良の観光」といった大義名分があるから存続を許されているのであろうが、奈良県民の貴重な税金を使ってまで運用する価値のある大学であろうか。

パンフレット研究:青森公立大学

1993年に、経営経済学部経営経済学科を擁する大学として設置され、1997年に修士課程、2007年には博士課程まで設置されている。現在では「経営学科」「経済学科」「地域みらい学科」の3学科で構成されている。

北東北という地域性のため、第2外国語ではロシア語、韓国語、中国語の3言語がある。その中で、唯一ロシア語のみ正規のロシア人の准教授もおり、4年時まで授業が置かれている。

しかし、果たして人口30万人の青森市が博士課程まで設置されている大学を運営していけるのであろうか。おそらくは国立弘前大学が人文、教育、医、理工、農学部の5学部しか設置していないため、穴を埋める形で経済経営系の大学が企画されたのであろう。1980年代後半の財政バブル、受験バブルも後押ししたのかもしれない。ただ、今後、青森市の郊外で経済経営系の単科大学では先行きが心配される。邪推であるが、原発マネーが入ってやっとこさっとこの運営なのかもしれない。

青森と弘前は特急で一本なので、弘前大学との遠い先の合併を見据えた連携という道を歩んだ方がよいであろう。理系の単科大学であれば就職含め需要はあるが、文系の単科大学、しかも大学院まで設置してしまってはフレキシブルな改革も難しいであろう。

学長自ら「大学進学は、4年の時間と多額の費用を要する、大きな投資です。高校生の皆さんは、その見返りとして何を求めますか。青森公立大学は、就職や資格取得のための予備校ではありません。本学は、不透明な現代社会にあって、自分の力で力強く生き抜いて行ける、自律した若者を厳しく育てたいと願っています。皆さん自身の進学目的を今一度反芻し、本学の『良さ』を知ってください。」と述べている。そうした危機感を煽らねばならないほど、学生の勉学に対する意識が低いのであろうか。公立の大学なのに推薦入試では1.1倍という低倍率である。ただ学費が安いというだけで選ぶ大学となっているのであろう。

『24人のビリー・ミリガン〔下〕:ある多重人格者の記録』

昨日に続いて、本日も5時間近くかけて、ダニエル・キイス『24人のビリー・ミリガン〔下〕:ある多重人格者の記録』(早川書房 1992)を読んだ。
集中して読まないと、話の脈絡と膨大な登場人物(人格)が整理できないと思って一気に読んだ。上下巻合わせて大きく3部で構成され、第1部はビリー・ミリガンが逮捕され、アセンズ精神衛生センターに移送されるまでが描かれる。第2部は大変長く、統合されたビリー・ミリガンが生まれた間もない頃から逮捕されるまでの22年間の過去半生が大変緻密に語られる。途中、上等のSF小説を読んでいるような気になってきた。そして、第3部では地元のメディアや政治家の批判によって、重警備の精神病院をたらい回しされ、またアセンズに戻ってくるまでが描かれる。

読後、ビリー・ミリガン氏のその後のアセンズ病院での治療や、重警備の精神病院での経験が描かれた続編があると知って早速ネットで注文した。すぐに読まないと今作の「記憶が失われて」しまいそうだから。