堤未果『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書 2008)を読む。
著者は東京新聞の朝刊にコラムを持つ気鋭のコラムニストであり、文章が非常に鋭く、かつ読みやすいので手に取ってみた。
圧倒的な軍隊の力で世界の警察を自任し、世界共通通貨であるドルを普及させることでグローバル経済を主導するアメリカの国内で、貧困が恣意的に生み出され、その貧困を利用した軍事ビジネスが花盛りというSFアニメのような現実が克明に描かれる。
貧困家庭への食費保護がブッシュ政権になってから削られ、栄養のないカロリーだけのジャンクフード漬けの毎日で貧困の肥満児が増えているという。また、医療そのものが民営化され、未保険者が高騰する医療費を払うことが出来ず、生活が破綻する国民が急増しているそうだ。そして、9.11以降、高校生の個人情報が学校を通じて軍に流され、そして大学の授業料などを餌に、貧困家庭の高校生に軍隊へのリクルートが殺到しているそうだ。その勧誘も全てノルマがあるため、リクルーターに騙されてイラクの前線に送られる若者も多い。また、イラクでは武器弾薬を扱うのは米軍であるが、その兵士の生活を支えたり、弾薬の輸送や管理の大半は何層にも連なった派遣会社に委ねられ、低賃金で命の保障もない悪条件で貧困層の人たちが働かされている。
何やら、アフリカや南米の独裁国家での話のように聞こえるが、これが日本が見本としてきたアメリカの現実である。医療、教育、消防、軍隊などあらゆる分野で民営化、競争主義を導入した結果、一度の失敗や病気、災害で貧困に陥る家庭が急増し、一部の富裕層と多くの貧困層に色分けされていく。アメリカのNGO「世界個人情報機関」のスタッフのコメントが印象的であった。
政府は格差を拡大する政策を次々に打ち出すだけでいいのです。経済的に追いつめられた国民は、黙っていてもイデオロギーのためではなく、生活苦から戦争に行ってくれますから。ある者は兵士として、またある者は戦争請負会社の派遣社員として、巨大な利益を生み出す戦争ビジネスを支えてくれるのです。大企業は潤い、政府の中枢にいる人間たちをその資金力でバックアップする。これは国境を越えた巨大なゲームなのです。
そして、ニューヨークにあるNPO「イラク帰還兵反戦の会」の創設者の一人は次のように語る。
戦争をしているのは政府だとか、単に戦争vs平和という国家単位の対立軸ではもはや人を動かせないことに、運動家たちは気づかなければいけません。私たち帰還兵も、民営化された戦争を支える戦争請負会社やグローバル派遣会社の実態を知らせるだけでは弱いのです。何よりそれら大企業を支えているのが、実は今まで自分たちが何の疑問も持たずに続けてきた消費至上ライフスタイルだったという認識と戦争意識を、まず声を上げる側がしっかりと持つことで、初めて説得力が出てくるのです。