せっかくヒロシマを訪れたので,思い出を深化させようと一冊本を手に取ってみた。
松元寛『広島長崎修学旅行案内:原爆の跡をたずねる』(岩波ジュニア新書 1982)のヒロシマの章段を中心に読む。
高校生向けの本で平易な文章なのであるが,かなり難しい哲学や反戦運動の論理を含んでいるのでしばらく本棚に眠っていた本である。原爆慰霊碑の「過ちは繰返しませぬ」の主語の問題や,広島の軍事拠点のしての機能,原爆を冷戦の始まりと捉える視点など,1945年8月6日の午前8時15分に投下された原爆の因果を多角的に論じつつ,「被爆体験の継承」の意義が述べられている。著者は原水協の関係者なのだろうか,共産党に近い主張が繰り返される。
あとがきで,著者は次のようにまとめている。
ヒロシマ,ナガサキの思想というようなことがよくいわれますが,それは,被爆体験をその絶対主義から解きはなって,現代の状況のなかに正確に位置づけるところから生まれると思いますし,そこからは,被爆者の運動を,他の戦災者や戦争被害者の運動と連帯させ,さらには公害反対運動などの地域住民運動と連帯させる可能性も大きく開かれてくるのではないかと思います。