今掘和友『老化とは何か』(岩波新書 1993)を読む。
タウタンパク質だの、グルココルチコイドなど専門用語がさっぱりだったので、本編は半分ほど読み飛ばし、最後のエピローグだけじっくりと目を通すことになった。その中で次の一節に目が留まった。
考えてみると、老人の福祉や治療というのは、高齢化社会のもたらす問題に対する対処療法であるに過ぎません。医療には対処療法と根本的治療があります。頭痛がする患者さんに鎮静剤を与えるのは対処療法です。頭痛の原因が例えば脳血腫であるとするなら、鎮痛剤で一時的に治まったとしても、必ず再発します。これに対し、頭痛の原因が脳血腫であることを見極め、これを除去するのが根本的治療です。高齢化社会の問題は加齢に伴い、多少の機能低下は仕方ないにしろ、大きな機能低下が起こる点にあります。これを防止することがこの問題の根本的治療であるはずです。そのためには、「老化の生物学」が大きな役割を果たすのだと思っています。
著者は、老化の実態を、「高齢社会」や「医療・年金」、「介護・福祉」といった社会的な切り口ではなく、ずばり生理学的な側面からこれを問題視し解明を試みる。確かに私たちは高齢に伴う様々な機能的障害や社会的不利を自明のものとして考えがちである。しかし、機能低下そのものの改善が前提になければならないという著者の見解は、私自身が狭い視野に捕われていたことを知らしめてくれた。