第119回芥川賞受賞作である藤沢周『ブエノスアイレス午前零時』(河出書房新書1998)を読む。
年寄り向けのダンスホールしか目ぼしい施設がない、雪と山に囲まれた田舎ホテルで、現実の平凡な生活にくすぶる青年の心理を描く。一見フィッツジェラルドを思わせるような物語世界で、淡々とした日常の中の倦怠感を描く。しかし展開に起伏がなく最後まで読むのが苦痛であった。
むしろ併載作『屋上」の方が面白かった。丸一日デパートの狭隘な屋上で働くサラリーマンの鬱屈した感情と、それと相反するかのような広漠とした虚構世界が入り乱れ、不思議な読後感の漂う作品である。
『ブエノスアイレス午前零時』
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