日別アーカイブ: 2006年9月8日

『負け犬の遠吠え』

酒井順子『負け犬の遠吠え』(講談社 2003)を読む。
男は仕事、女は結婚・育児という保守的な人生観がここ10年くらい息を吹き返しつつある。「30代、独身、子どもなし」という「負け犬」人生を歩むことになった30代後半の女性の悲哀を諧謔交えて描く。
話を読み進めながら、「負け犬」の30代後半女性は、就職氷河期で正採用のチャンスを逃し、派遣やアルバイト生活を続ける20代後半から30代にかけての「ニート」に大変近いと思った。どちらも80年代後半のトレンディドラマに出てくるような派手な恋愛やサラリーマン、OLの仕事姿に憧れ、理想と現実のギャップを受け入れることができないでいる。どちらも人事担当や上司からの仕事や人柄の評価、また独身男性からの容姿やかわいさの評価を得ることができない。そして、そうした一面的な評価を人格そのものの否定と受け取ってしまい自身を失いかけている。
しかし、そうした一部の評価を過大に受け取ってしまう「負け犬」の捉え方の背景に、日本の社会のせちがらさ、また多様な視点で受け入れてもらう経験の場が少ない日本の教育の貧困さが伺える。著者自身が教育やマスコミが作り上げた一面的な格差のカラクリに気付き、開き直って執筆していることに、読者は救われる。

金井先生の講義

今日のスクーリングの授業の一つは、日本でナイチンゲール思想を現場に活かすための研究をしている金井先生の講義であった。
ナイチンゲールは子ども向けの伝記などを読むと、「白衣の天使」と心優しい看護師の母ぐらいにしか考えられていないが、実際は社会学的アプローチによる貧困層や福祉の調査や看護理論の研究に後半生を費やした人である。金井先生はそのナイチンゲールの思想に着目し、看護をベースに介護の理論を土台として、個々の利用者を看るための方法論を構築しようとしている。その詳細は「KOMI理論」としてまとめられている。介護職の人たちにもかなりの専門性を求めるものであり、介護職の自立に向けた一つのありようとして注目していきたい。