まったく接点のなさそうな二人の伝記を取り上げてみたい。
二反長半『湯川秀樹』(ポプラ社文庫 1994)と荒井魏『映画少年・淀川長治』(岩波ジュニア新書 2000)の二冊を読んでみた。
湯川秀樹氏は1907(明治40)年生まれ、淀川長治氏は1909(明治42)年生まれとほぼ同時期に生まれている。湯川氏は学校の一方的な解法を強いる授業よりも数学や物理の世界に興味を持ち、淀川氏は映画館こそが学校であると湯川氏とは逆に理数科目はぼろぼろであった。そして二人とも青春時代を戦争とともに過ごし、戦争に対する批判として、湯川氏は平和のための科学技術の在り方を、淀川氏は平和の礎を築くための愛を映画に求めていった。戦争をどういう形で体験し、どう反省したのかということがこの世代の人間にとって大きなテーマである。文学だけでなく、映画や科学の世界でも戦争の総括が戦後の発展の岐路となっていったのだ。