『全人教育論』

小原國芳『全人教育論』(玉川大学出版部 1969、改訂版1997)を読む。
成城学園の主事として大正自由教育運動を担い、玉川学園を創設した小原氏の理想的な教育哲学と教育実践が述べられている。戦前の国家主義的な注入教育全盛の時代に、ペスタロッチ的な児童中心主義を貫いた教育思想を主張したことの意義は大きい。総合的な学習の時間や宗教に対する精神の涵養など現在の教育政策につながるようなことにも触れている。
しかし、彼の言うところの全人教育や宗教教育の中身の構造は見えてこなかった。ちょうど時代的に近いせいもあるが、太宰治が「富嶽百景」で述べた芸術論を思い起こさせる。大宰が芸術を調和の象徴である富士山に喩えたように、小原氏は教育の理想を児童の調和的発達に見出す。

永遠に未来永劫不変の教育とは、あらゆる正反対の二つの一つ一つを一つにした一つのみがそれだと思うのです。その中心が実に自我なのです。その自我を広く、高く、深く、清らかに育て上げねばなりませぬ。

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