日別アーカイブ: 2005年4月22日

『ルソー』

桑原武夫『ルソー』(岩波新書 1962)を読む。
言わずと知れた『社会契約論』『エミール』の著者であるルソーだが、改めて彼の思想の革新性に触れることが出来た。一般にルソーというとロックが提唱した「市民の権利」を絶対的なものと位置づけフランス革命の理論的な裏付けとなった偉大な人というイメージがある。しかし実際は当時のブルボン王朝体制を批判し、キリスト教も否定した人物のため、時の政府に嫌われ、晩年は執拗な警察の嫌がらせに耐えながらの生活だったようだ。ルソーというと民主主義の基礎を作ったと歴史の教科書には書かれているが、当時起こりつつあったブルジョワ民主主義すらも強く否定している。『人間不平等起源論』の中で次のように述べる。

土地にかこいをして「これは俺のものだ」と宣言することを思いつき、それをそのまま信ずるようなごく単純な人々を見出した最初の人間が、政治社会の真の建設者であった。杭を抜きとり、あるいは溝を埋めながら「こんなペテン師のいうことを聞いてはならない。果実は万人のものであり、土地は誰のものでもないことを忘れるなら、それこそ諸君の身の破滅だ!」とその同胞に向かって絶叫する者が仮にあったとしたら、その人は、いかに多くの犯罪と戦争と殺人を、またいかに多くの悲惨と恐怖を、人類にまぬがれさせてやれたことだろう。

ルソーの考える理想的な教育論を展開した作品として『エミール』が良く世間に知られているところである。教育史の本などを読むと、ルソーは子どもの持つ良い可能性を盲進し、孟子の性善説を地で行くような教育を展開したように書かれている。しかし、実際のルソーは孟子というよりは、老荘な「無為自然」を説いたのである。彼の思想はフランス革命に影響を与えたというよりも、1870年代のフランスのパリコミューンに直接的な影響を与えたと考えて良い。

ルソーが音楽教師時代に「むすんでひらいて」という曲を書いたという事実は「へぇ〜」70くらいあった。