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『イワンのばか』

トルストイ民謡集、中村白葉訳『イワンのばか』(岩波文庫 1932)を読む。
最近、仕事の疲れで気持ちがクサクサしていたので、雄大なシベリアの自然が生み出した文学に浸ろうと手に取ってみた。
表題作『イワンのばかとそのふたりの兄弟』の他、多少の贅沢が身を滅ぼす結果を招いた『小さい悪魔がパンきれのつぐないをした話』や、貪欲な土地所有の強欲を描く『人にはどれほどの土地がいるか』など8編の短編が収録されている。
どの作品にも、労働と倫理観がテーマとなっており、愚直なまでに勤労を重んじる姿勢と、三位一体の信仰を描いた『三人の隠者』や『洗礼の子』のように、ロシア正教のストイックな倫理観が作品の基調をなしている。
せせこましい人間関係にストレスを感じていたので、ちょっとした気分転換となった。

『デラシネの旗』

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五木寛之『デラシネの旗』(講談社 1969)を20数年ぶりに読み返す。
「デラシネ」とは「根無し草」という意味のフランス語であり、五木氏は過去と現在の隔絶、異性愛と同性愛の間のグレーゾーン、そして、反体制側と体制側の溝、といったどっち付かずの中で生き抜く人たちを描く。
砂川闘争や内灘闘争といった学生運動を経て、放送会社の組合長く続けたのだが、組合を辞め会社の管理職に駒を進めることになった30代半ばの会社員黒井が主人公である。その彼がたまたま取材テープの「パリ5月革命」の映像の中に学生運動時代の友人の姿を見つけたことから話は始まる。焼け木杭に火が付いてしまったのか、黒井は仕事や家族を擲ってまでパリに乗り込み、学生運動の闘士だった九鬼を追いかけていく。

結局主人公黒井は何を追いかけたかったのであろうか。理想主義に燃えていた頃の九鬼に単に久闊を叙したかったのであろうか。会社の命令通り、国際的な反戦学生組織を指揮する日本人を取材したかったのか。それとも、組合を離れ、会社の論理に組み込まれていく自分が不安になり過去の自分を取り戻したかったのであろうか。しかし、結論ははっきりとは示されず、読者の想像に委ねられている。

久しぶりに自分の今の生活と重ね合わせながら読むことができて面白かった。学生時代に読んだ時は果たしてどういう感想を持ったのであろうか。私も20年前の自分に会うことができるのならば質問してみたい。

『ジョーカー・ゲーム』

JokerGame

第30回吉川英治文学新人賞及び第62回日本推理作家協会賞受賞作、柳広司『ジョーカー・ゲーム』(角川書店 2008)を読む。
1930年代後半に設置された、帝国陸軍内部の極秘諜報機関”D機関”の活躍を描くミステリー作品である。
来年には映画化が予定されているようだが、言葉のちょっとしたニュアンスや主人公の頭の中での筋立てが中心の作品なので、原作の面白さを超えるのは難しいであろう。

『ロシアはどこに行くのか』

筑波大学大学院教授中村逸郎『ロシアはどこに行くのか:タンデム型デモクラシーの限界』(講談社現代新書 2008)を読む。
地誌学の勉強として読み始めたが、読み終えたのは試験後であった。まあ、試験は北ユーラシアの自然環境だったので、試験前に読み終えてもあまり意味はなかったかもしれない。

話は2000年から2008年までの第2代大統領時代のプーチンの人柄や政策に絞られ、大統領就任後の政治や社会の変化が丁寧に説明されている。
プーチンは強いリーダーシップ像を打ち出しているが、それは「永遠に若いリーダー」として神話化されているレーニンのイメージを意図的に踏襲しているものである。一方、プーチンは旧ソ連共産党から迫害を受けたノーベル賞作家のソルジェニーツィンに国家勲章を授けている。中村氏は、保守派(スラブ的・共産党寄り・独裁主義)と、改革派(西欧的・市場経済・民主主義)の両側面を絶妙に使い分けているバランス感覚に長けている政治家であると評している。しかし、裏金や賄賂、不正工作まみれの選挙によって議会を牛耳るなど、国民の圧倒的支持のもとで、権力の個人集中を進めており、批判した人物が謎の死を遂げるなど、一昔前の開発独裁の側面も指摘される。国内では貧富の差が拡大しており、それもウラル山脈の西側のヨーロッパ地域と、ウラル山脈東側のアジア地域の間で、また、ロシア本国と連邦内共和国の間で、さらには、連邦と周辺の独立共和国の間で、地域や民族の分断を助長する方向で格差が広がっているという実情が、プーチン個人のリーダーシップで糊塗されている。

気になった一節を引用しておきたい。ロシアとヨーロッパの関係について、経済は良いが軍事はダメという方針は、考えてみれば当たり前のことなのだが、日本人はついついそうした関係を単純化してしまう傾向が強いように思う。

(ロシア軍のグルジア侵攻について、米国や西欧諸国が難を示した点について)ロシアからすれば、EUの東方拡大にはそれほどの違和感はない。というのもEUの東方進出はロシアにとってマーケットの拡大を意味し、経済好調を維持する上でのマイナス面は少ないからだ。だが、北大西洋条約機構(NATO)の勢力拡大は我慢できない。

それにしても、1科目50分で3科目の試験は体力的に堪える。帰りの電車ではぐったりとなってしまった。

『ポケット図解 ロシア連邦がよ〜くわかる本』

榎本裕洋『ポケット図解 ロシア連邦がよ〜くわかる本』(秀和システム 2007)をかいつまんで読む。
地誌学の試験範囲が「北ユーラシア」だったので、試験直前にロシアの国土や歴史、政治、経済についての知識を詰め込んでおこうと手に取ってみた。
参考書と同じく、太文字のゴシック体の用語だけを拾いながら読んだだけなのだが、ゴルバチョフがロシアであまり人気がない訳や、プーチンを崇拝するロシアの国民性などが少し理解できたような気がした。