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『燃えよ剣』

司馬遼太郎『燃えよ剣』(新潮文庫 1972)の上下巻を一気に読む。
1964年に刊行された著者の代表作である。
最後はマクドナルドでコーヒー1杯で4時間以上、まったく同じ姿勢で読み続けた。途中で止めることができなかった。函館の戦いで土方が敵方に斬り込んでいくラストシーンでは涙ぐんでしまった。小説を読んで泣いたのは、浅田次郎原作の『鉄道員(ぽっぽや)』以来だろうか。

新撰組というと、旧幕府に仕えた時代遅れの侍集団というイメージが強かった。坂本龍馬や西郷隆盛、勝海舟、桂小五郎などがスポットライトを浴びるならば、徳川慶喜や水戸藩は引き立て役に過ぎず、新撰組や会津藩は完全なヒールになってしまう。明治維新を是とするならば、それも歴史の見方である。

作品の中で何度か楠木正成の名前が登場する。強大な天皇権で日本を統一しようとした後醍醐天皇に最後まで忠誠を尽くし、足利勢と戦ったのが楠木正成である。名前も功績も知識としては知っていたが、現在皇居に銅像が建てられるまでに、薩長の勤王派がこぞって尊敬した背景が理解できた。

前半は原則を徹底するために、内部の者すら殺略していく土方歳三の「若さ」がテーマとなっている。あさま山荘事件やリンチ殺人を行った連合赤軍を新撰組に擬える意見があるが、私も理想に向かってどんどん純化されていく新撰組から新左翼の革命集団を思い出した。著者自身も「東大、早大の全共闘との類似」に触れている。

後半は解説の陳舜臣が「筆がとみに挽歌のしらべを帯び」と称しているように、鳥羽伏見の戰いから一転して「破滅」に向かう男の生き方へとテーマが変調していく。ちょうど江戸の武士の時代から明治の官僚の時代に変わり、土方歳三の生き方そのものが古臭い唾棄すべきものだとの時代の空気が漂ってくる。そうした世相を知ってから知らずか、自分の生き方を貫こうとする土方にどんどん吸い寄せられていく。

もう少し早くこの本に出会っていればよかった。いや40代後半に入った今だから楽しめたのか。

『貴賓室の怪人』

内田康夫『貴賓室の怪人:「飛鳥」編』(角川書店 2000)を読む。
実在するクルーズ船「飛鳥Ⅱ」を舞台にした殺人事件である。ただし、ミステリーよりも、豪華クルーズの紹介がメインであり、スイートルーム客の大半が犯人であったという陳腐なモチーフで、ドタバタと話は終了していく。

『フィギュアスケートの魔力』

梅田香子・今川知子『フィギュアスケートの魔力』(文春新書 2004)を読む。
普段あまり縁のないフィギュアスケートの大会や練習環境といった、華やかな舞台の裏側が丁寧に語られる。

『旅行記でめぐる世界』

前川健一『旅行記でめぐる世界』(文春新書 2003)を読む。
戦後海外渡航が制限されていた1948年から2000年までの半世紀にわたる海外旅行記の研究書である。特に1961年に刊行された小田実の『何でもみてやろう』の前後の海外旅行の変化について紙幅を費やしている。

『天文学入門』

嶺重慎・有本淳一『天文学入門:星・銀河と私たち』(岩波ジュニア新書 2005)を読む。私たちがいる太陽系、天の川銀河、そして宇宙とスケールを拡大しながら、天文学の世界について分かりやすく説明している。ブラックホールや元素、ドップラー現象など少し難しめの内容も丁寧に解説されている、まさに岩波ジュニア新書の良心の塊のような内容であった。また著者に当時春日部女子高校に勤務されていた鈴木文二先生も名を連ねている。