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『モグラ博士のモグラの話』

川田伸一郎『モグラ博士のモグラの話』(岩波ジュニア新書 2009)をパラパラと読む。
著者自身がモグラといっても、「ふつうはツルハシとかヘルメットとかサングラスとかを身につけた、『工事中』のスタイル」しか思い浮かばないと謙遜するように、身近な動物であるにも関わらず、とんと見たことのない動物である。漫画や挿絵のイラストでは、モグラが地面にぽっかり空いた穴から、半分体を覗かせているように描かれていますが、実際のモグラは穴から顔を出すことはない。もし目にしているとした姿形はモグラにそっくりだが、半地下で暮らすネズミ程度の大きさのヒミズ(日不見)という動物である。

本筋のモグラの話よりも、著者が通っていた弘前大学の北溟寮の話が興味深かった。ちょうど1990年代半ばの出来事で、全国で大学の自治寮が取り壊されようとしていた時期である。著者の川田氏は大学の勉強そっちのけで、自治と安い寮費と、そして独特の楽しい共同生活を守るために、3年間にわたって闘っていたとのこと。そういった「寮」という特殊な経験が、それ以降の研究者としての姿勢を築いたという点が面白かった。

『グローバリゼーション』

伊豫谷登士翁・編『グローバリゼーション:思想読本[8]』(作品社 2002)をパラパラと読む。
Wikipediaで調べてみたところ、編者の伊豫谷氏は東京外国語大学と一橋大学で長らく教鞭をとられ、本書のタイトルにもなっている「グローバリゼーション」に関する研究に従事していた研究者である。経歴を見ると、つい先月の5月28日に逝去されたばかりであった。

ほとんど読んでいないのに読んだふりをすると、要は政治のグローバリゼーションが帝国主義であったり、共産主義であったり、また経済のグローバリゼーションが多国籍企業やWTO、IMFであったり、さらには環境問題やエネルギー問題、イスラム教、移民・難民なども関わってきたりと、現代社会そのものがグローバリゼーション抜きには語ることができなくなっている。そうした現状を語った上で、グローバリゼーションを分析する上でも、批判する上でも、人文・社会・自然といった旧来の枠組みを完全に組み替えるような新たなアプローチが求められると述べている。

『消えゆく限界大学』

小川洋『消えゆく限界大学:私立大学定員割れの構造』(白水社 2016)を読む。
大学を卒業後、20数年間、埼玉県の県立高校の地歴科の教員として勤務し、私立大学の教職課程担当となった著者が、主に女子大や短大から4年制大学へ移行し、鰻登りに成長していった大学、一方で生徒募集に行き詰まっている大学の現状を紹介し、理事会の経営判断の重要性を力説する。

著者は短大や女子大から4年制の共学大学への移行に成功した例として武蔵野大学と目白大学を挙げている。また、地方の大学という不利な条件を覆して地元密着型の就職で成功した例として松本大学と共愛学園前橋国際大学をあげている。1990年代末から急激な生徒減少を迎え、多くの大学があたふたする中で、理事会の経営判断の早さが功を奏した好事例として評価している。

一方で、1990年代以降、高校生が興味を持ちそうな「国際」「コミュニケーション」「子ども」「心理」「情報」「環境」「スポーツ」の7つのキーワードの中から2語組み合わせた学部・学科が急増したが、それらを擁する大学が2010年代に入って軒並み生徒募集に苦しんでいる。それらの大学は「ゴールデンセブン」とも言われる1986年から1992年までの大学の臨時収入が急増した時期に、大した経営展望のないままに短大から4年制に改組した大学や就職直結の医療系や福祉、教育学部を新設するだけの拡張路線を突っ走った失敗事例として取り上げている。

孫引きになるが、英文学者で法政大学名誉教授であった川成洋私は、2000年に上梓した『大学崩壊!』の中で、次のように述べている。まるで昨年今年の日大の理事会をそのまま評したような内容である。

 理事の中には、大学の経営とか運営といった視点を微塵も持ち合わせず、まるで自分ですべて決定しうる「零細企業の社長」か「町の商店主」気質丸出しの人物が多い。一口で言えば、金と権力には貪欲で、おおよそ「教育」とか、「学問」などといった理知的な分野に馴染まない連中が、何故か、ちゃっかり理事に収まっている。

『呪いの指紋』

江戸川乱歩『呪いの指紋』(ポプラ社 1970)を読む。
1937年9月〜38年10月にかけて連載された『悪魔の紋章』という大人向けの小説を子ども向けに書き直したものである。カーブに差し掛かったところで汽車から飛び降りたり、電話室が登場したり、昭和初期の雑然とした雰囲気が感じられる。

『マネーはこう動く』

藤巻健史『マネーはこう動く:知識ゼロでわかる実践・経済学』(光文社 2007)を読む。
日銀の量的緩和や為替政策、インフレ、円安など、とっつきにくい話題を噛んで含めるように、丁寧に説明している。わかりやすい大学の実況中継シリーズを読んでいるようだった。2007年に刊行された本で、リーマンショック以前の内容だが、日米の金利差による円安とインフレを前提とした日本のあるべき金融政策など、2022年に刊行された本かと思うほどだった。著者の視点の鋭さを感じた。