『モグラ博士のモグラの話』

川田伸一郎『モグラ博士のモグラの話』(岩波ジュニア新書 2009)をパラパラと読む。
著者自身がモグラといっても、「ふつうはツルハシとかヘルメットとかサングラスとかを身につけた、『工事中』のスタイル」しか思い浮かばないと謙遜するように、身近な動物であるにも関わらず、とんと見たことのない動物である。漫画や挿絵のイラストでは、モグラが地面にぽっかり空いた穴から、半分体を覗かせているように描かれていますが、実際のモグラは穴から顔を出すことはない。もし目にしているとした姿形はモグラにそっくりだが、半地下で暮らすネズミ程度の大きさのヒミズ(日不見)という動物である。

本筋のモグラの話よりも、著者が通っていた弘前大学の北溟寮の話が興味深かった。ちょうど1990年代半ばの出来事で、全国で大学の自治寮が取り壊されようとしていた時期である。著者の川田氏は大学の勉強そっちのけで、自治と安い寮費と、そして独特の楽しい共同生活を守るために、3年間にわたって闘っていたとのこと。そういった「寮」という特殊な経験が、それ以降の研究者としての姿勢を築いたという点が面白かった。