投稿者「heavysnow」のアーカイブ

『二重スパイ』

本日封切りされたキム・ヒョンジョン監督映画『二重スパイ』(2003 韓国)を観に出かけた。
『マトリックス・リローデッド』と同時に公開されたためか、残念ながら、館内の観客は疎らであった。
背反する国家と愛情に悩む主人公の姿とスパイ映画にありがちなモチーフであったが、民族意識と統一の問題について少し考えている時期だったので楽しめることが出来た。70年代後半から80年代にかけて日本が一定の平和を謳歌している時期に、峻烈な同民族同士の憎しみ合いを強制されてきた民族の悲哀を改めて実感した。前作『JSA』が友情と国家というテーマだったのに対し、今回は愛情と国家であったためか、陳腐な恋愛映画の雰囲気が根底に流れてしまったのは残念だった。韓国脱出後のラストシーンはほぼ展開が読めてしまった。

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『読書通』

ハイブロー武蔵『読書通』(総合法令 1999)を読む。
読書が単に知識を得るためのものではなく、人間関係の機微を読み取る想像力が養われ、生活の一部となることで生活にリズムを与え、引いては人生を豊かなものにするという主旨をやたらにゴリ押しする内容である。その主張自体は分かりやすいものなので異論はなかったが、大東亜戦争での日本軍賛美や選民思想的な発言が随所にあり大変読後感の悪い作品であった。著者自身が敬愛する作家として渡辺昇一や小室直樹、司馬遼太郎等が挙げられている点で内容は想像つくであろう。

『M&A革命』

浅井隆『M&A革命:企業の命運を制する情報戦争』(第二海援隊 1999)を読む。
M&A(mergers and acquisitions)とは、日本語に訳せば合併と買収のことである。特にアメリカの熾烈なM&Aの実態ー病院やマスコミもその対象となるーを引き合いに出しながらも、ボーダーレス化が進めば進むほど、逆に個々の企業文化のオリジナリティが問われると筆者は述べる。株式交換、営業譲渡などの実務的な話しは要を掴めなかったが、会社が人生の拠り所と考える向きの多い日本でも、M&Aは増えこそすれ減ることはないことを実感した。しかし日本企業の「経営体質改善」の前提として、アメリカやヨーロッパの企業は「狩猟民族的気質」であり、日本企業は「農耕民族的気質」であるとした論はいささか古すぎる感が否めなかった。

『IT革命のカラクリ:東大で月尾教授に聞く!』

月尾嘉男・田原総一朗『IT革命のカラクリ:東大で月尾教授に聞く!』(アスキー 2000)を読む。
月尾教授は毎週TBSラジオのゲストとして趣味のカヌーの話やグローバルスタンダードの実情について面白い話を紹介しており、気になっていた人だった。最近は耳にすることも少なくなったが、「IT革命」なるものは産業革命以降の大量・計画生産方式から、消費者主体の一品注文生産構造へ転換することだと月尾教授は定義付ける。フォード式の大量生産からデルコンピュータの一品生産への転換に象徴されているように、情報通信技術の進展だけを指すのではなく、産業構造そのものが大きく変わり、旧来のシステムが破壊されていく過程を表すのだ。また情報競争の発展は二番煎じ的なものを許さず、メディアを含めた中間的なものも大きく淘汰されていく。また教育も英語と論理学をベースに「違うものを発想する力」の育成が問われると述べる。