投稿者「heavysnow」のアーカイブ

『黄昏の橋』

 高橋和巳『黄昏の橋』(筑摩書房 1971)を読む。
 『現代の眼』に連載されていた作品で、未完に終わった作品である。安保やベトナム戦争など社会の矛盾に反対の意を表明する学生運動に、身体を投げ打ってでも参加したいが、既に体制側に回り資本の矛盾を担ってしまった主人公の忸怩たる思いが悔悟とともに語られる。大学を卒業し、俺は駄目だ、駄目だと世の中に甘えながらも、結局は自己否定の仮面をかぶるだけで、実のところ自惚れを傷つけずにすむ仕事に居座り続ける自らの立場を主人公は徹底的に自己批判する。

 デモ隊に加わったもののすべてが何も英雄ではない。いやそもそもデモは英雄ではない常人の意思表示なのであり、国家の戦争加担を糾弾し、平和を欲すること自体が、そもそも、卑小でもあれば偉大でもあり、崇高でもあれば臆病でもある人間の極くあたり前の祈願なのだ。

『ナンバ健康法』

金田伸夫『ナンバ健康法』(三笠書房 2005)を読む。
著者は桐朋高校のバスケットボール部の顧問を務めており、古武術の動きである日本古来の走り方である「ナンバ」を練習に取り入れ、全国大会出場へと導いた人物である。武術研究家の甲野善紀氏の提唱する運動原理「ねじらない」「うねらない」「ためない」「強くけらない」をベースに、運動だけでなく人間の体に無理のない自然な健康法を紹介する。

  • 肩甲骨体操
  • S字体操
  • 骨盤歩き
  • 提灯練習法

『The Juon』

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昨日さいたま新都心へ清水崇監督『The Juon』(2004)を観に行った。
これまで公開された『呪怨』日本版のリメークであるが、音楽や恐怖シーンの登場など、怖さはより倍化されている。しかし、惨殺された女性の呪いが登場人物にとりつき命を奪うという内容で、最後のエンディングまで何らの解決もみられず、作品に「救い」が全く見られない。。。

『レフト・アローン』

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昨日、渋谷のユーロスペースへ、井土紀州監督『レフト・アローン』(2005)を観に行った。
六全協の頃の共産党運動を経験した松田政男氏や60年安保当時東大の共産同の活動家であった西部邁らに、文芸評論家である糸圭(すが)秀実氏がインタビューするという形で話は展開していく。
糸圭氏は、教条主義に陥った共産党に対して、1956年のスターリン批判を契機に生まれ、あくまで実力行動主義を貫こうとする新左翼運動を評価する。しかし60年安保や68年全共闘運動と、2001年の早大地下部室運動がどのような形で繋がっているのか理解できず、ただ、人間的なものを捨象してしまった左翼運動には興味がなくなってしまったよという西部邁氏の発言のみが光る内容となっている。パート2に期待したい。

『竹中教授のみんなの経済学』

竹中平蔵『竹中教授のみんなの経済学』(幻冬舎 2000)を読む。
勉強しない大学生を対象とした参考書の体裁をとっている。現在の日本は個人の1400兆円にも上る貯蓄が滞っているから経済の停滞を招いており、株式投資や投資信託などを利用し資産を運用せよと、読者に滔々と啓蒙を試みる。徹底した古典派経済学者で、自己責任を原則として個人も銀行も市場に全てを任せることでうまくいくと断言する。自民党族議員からも社民、共産党からもそっぽを向かれるような政策であり、ピエロ的立場で旧自由党を中心とした民主党右派勢力の政策の代弁者となっている。現在も小泉政権の中で金融・経済財政政策の内閣府特命担当大臣を務めており、弱肉強食の殺伐とした社会を目指す小泉政権の象徴的存在となっている。

余談であるが、最近ベンチャービジネスで成功したビジネスマンの自宅や豪勢な暮らしを取り上げるバラエティ番組が多い。公園の片隅で暮らす野宿労働者を強制的に排除する一方で、年収数億円のビジネスマンをありがたがるような風潮はテレビ番組とはいえ気味悪いものを感じる。