中村運『生命進化7つのなぞ』(岩波ジュニア新書 1990)を読む。
生物学入門と名打ってはいるが、光合成や代謝の説明など中高生向けの本とはとても思えないほど専門的な説明に終始している。だが、原始の海に生息したバクテリアから私たち現人類ホモ=サピエンスまで、生命は「種の保存」というプログラムに従って、遺伝子レベルから生活レベルに至るまでその形態を大きく変化させてきたその妙には驚くばかりである。かつて大友克洋監督の『AKIRA』という映画では、生命が進化する根本の力を「AKIRA」と命名して、その莫大な力を人類がコントロールすることの難しさがテーマであった。この本でも著者中村氏は生命進化の頂点に位置する人類こそが生命体系全体に責任を負うべきだと主張している。
『電気を発見した7人』
渡辺勇『電気を発見した7人』(岩波ジュニア新書 1991)を読む。
ガルバーニによる電気の発見からボルタ、エルステッド、アンペール、オーム、ファラデーを経てマックスウェルによる電磁力学まで、私たちの生活を支える電気の発展の歴史を丁寧に解説している。「V=IR」とはオームの法則として有名な公式であるが、私たちは電流は流れるものとして、そして電圧は電流を流す圧力として何の疑いも持たずに暗記してしまうが、この公式が生まれるまでに様々な試行錯誤の実験が繰り返された。オームの公式で”I”は電流を指すが、これは元々電気というものにびっくりした研究者が放電による激しさや感電したときの衝撃の強さ、厳しさを示す”intensity”が由来となっている。この言葉一つとっても電気に人生を懸けてきた研究者の思いが伝わってくる。
オームの法則が15年間も認められずその正しい実証的な結果を歪曲したのは、「思想」というヘーゲル哲学派の暴力でした。科学に思想がないのかというと、科学にこそ実は思想が大切なんだということを、わたしたちは話し合ったのではないでしょうか。つまり電圧という思想をもつことによって、それまであいまいで不明瞭な電気の性格が、的確に、しかも全体がはっきりしてきます。電流、電圧、抵抗、そういう考え方ができあがってきて、はじめて電気回路という全体像が明確になったのです。思想というと社会科学や政治にかんすることをいうものだと思っているかもしれませんが、電圧という言葉のもつものも立派な思想であると私は思います。そのことを理解しないと、科学の言葉がもっている本当の意味が理解できなくて、ただ数式を暗記したり、問題を解くために公式を覚えているだけになってしまうでしょう。
『マンガ心理学入門』
ナイジェル・C・ベンソン『マンガ心理学入門:現代心理学の全体像が見える』(講談社ブルーバックス 2001)を読む。
発達心理学から社会心理学まで心理学の歴史とその守備範囲を分かりやすく解説している。題の通り心理学の全体像を探るにはうってつけの入門書であろう。現代心理学のアメリカで発達し、異性愛の白人男性を標準として「正常−異常」「優等−劣等」が測られてきたが、著者はそうした白人優勢主義を増幅する危険性に対する一定の批判を踏まえ、心理学の将来を論じる。
『オペラ座の怪人』
アンドリュー・ロイド=ウェバー制作・脚本・作曲『オペラ座の怪人』(2004 米)を観に行った。
面白いという評判だったのだが、なかなか観に行く機会がなく、上映終了日ぎりぎりに観ることが出来た。オペラ座を舞台にした映画であるが、映画そのものがオペラ仕立てにされており、あの有名なオペラ座の怪人のテーマ曲が巧みに使用されて見ごたえのある作品になっている。
『目でみる世界七不思議の旅』
森本哲郎編『目でみる世界七不思議の旅』(文春文庫 1986)を読む。
紀元前150年頃のギリシアの旅行家フィロンが選んだとされる世界七不思議について豊富な写真と共に解説している。たまには歴史ロマンに夢を馳せるのもよい。
彼が選んだ七不思議とは以下の通りである。
エジプトの大ピラミッド
バビロンの空中庭園
オリンピアのゼウス神像
ロードス島の巨人像
アレクサンドリアの大灯台
ハリカルナッソスの霊廟
エフェソスのアルテミスの神殿
先日観た映画『ナショナルトレジャー』は、上記のアレクサンドリアの大灯台に近くに建設されたという当時のヘレニズムの東西の知識が集まったというアレクサンドリアの大図書館の秘宝を探り当てるという話であった。私もいつか中国に移住して、夏王朝の宝物でも発掘したいものである。


