朝日新聞be編集グループ『うたの旅人』(朝日新聞社 2009)をパラパラと読む。
朝日新聞の土曜別刷りに隔週で連載され、ヒット曲のゆかりのある土地や関係者を訪ね、その歌が生まれた背景や時代が丁寧に描かれている。美空ひばりの「川の流れのように」やかぐや姫の「神田川」、新井満の「千の風になって」、坂本九の「上を向いて歩こう」など、昭和を代表する歌を中心にまとめられている。中にはベートーヴェンの「第九交響曲・歓喜の歌」や熊本県民謡の「五木の子守唄」も収められている。
目を引いたのが伊勢正三の「なごり雪」である。東京駅を発車するブルートレインでの別れを悲しむ恋の歌というイメージが強い。しかし、実際に伊勢正三が想起したのは、自身が高校時代に利していた大分の国電津久見駅である。当時全寮制の大分舞鶴高校の寮に帰るのに利用していたが、受験や就職など将来が不安な切ない雪の風景と重なり合ってできた歌ということだ。雪が消えて若者の旅立ちを応援するメッセージが印象に残る。