『魔王』

伊坂幸太郎『魔王』(講談社 2005)を読む。
表題作の他、5年後の後日談を視点を変えて描く『呼吸』の2編が収められている。
霊能力者のように相手に乗り移り、相手の口を借りて言葉を自由に発する能力を身に付けた青年が主人公である。やがて、その青年は国家主義を前面に打ち出す若手党首に反発を感じ、不可思議な死を遂げる。

ファンタジー小説なのだが、反米を掲げるファシズムの増長や憲法9条改正論議など、一見落ち着いたように見える日本社会の底流に流れる不満の声がテーマとなっている。結論はぼかしているが、右派の勢いに負けてしまう近未来の日本への注意喚起の小説となっている。