宮内勝典『金色の象』(河出書房新社 1981)を読む。
第3回野間文藝賞を受賞した表題作と、1974年度文藝賞候補作となった『行者シン』の2作が収められている。久しぶりに「純文学」風の小説を読んだ。『金色~』は、放浪生活の合間にふと日本に戻ってきた30手前の主人公と家出少女の出会いから、妊娠、出産、そして産後すぐに亡くなった嬰児の埋葬までの話である。現実の社会に確たる居場所のないふわふわした主人公が、亡くなった子どものために自ら墓の中に入り、遺骨を納めようとする姿が印象的だった。亡くなった子どもの埋葬で次のような主人公の気持ちが描かれる。
(父)「系図も外地で焼きましてな」
七百年ほど過去へ遡るという系図だった。その七百年という長さがいかにも胡散くさく、「系図買いのでっちあげだろ」と、よく両親をからかったりしたものだが、惜しかったな、と私は初めて思った。
出生届や死亡届とひきかえに手渡された一枚の埋葬許可証が胸をかすめた。あの無機質なてらてら光る紙ではなく、たとえでたらめの系図だとしても、その骨肉の累積のなかに竜太という名前を記してやりたかった。