高度情報化社会における情報教育の意義について

高度情報化社会における情報教育の意義について

そもそも高度情報化社会って何だろう。冒頭にこの定義について考えてみたい。
2001年に施行された「高度情報通信ネットワーク社会形成基本法」の中で、高度情報化社会とは「インターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて自由かつ安全に多様な情報又は知識を世界的規模で入手し、共有し、又は発信することにより、あらゆる分野における創造的かつ活力ある発展が可能となる社会」と定義されている。つまり、グローバルに情報が行き交う社会の中では、情報を取捨選択する能力だけでなく、情報を効果的に発信していかないと競争に生き残れないと警告しているのだ。まるでこれまでモノ作りに専念してきた日本イズムに対し、IT分野におけるソフト戦略で完全に失墜したことに対する反省文のようだ。しかし戦後型経済・行財政システムの再構築は、既に橋本龍太郎政権時に提唱された改革プログラムの中に盛り込まれていた。

そして、その社会の実現にあたっては、「すべての国民が、インターネットその他の高度情報通信ネットワークを容易にかつ主体的に利用する機会を有し、その利用の機会を通じて個々の能力を創造的かつ最大限に発揮することが可能となり、もって情報通信技術の恵沢をあまねく享受できる社会が実現されることを旨として、行われなければならない」とされている。すなわち情報通信システムは一部地域、階層だけで成立するものではなく、全ての国民が「情報」という得体の知れない管理の中に置かれることを示唆している。現在問題になっている住民基本台帳ネットワークシステムなどもこうした情報通信社会の下地となるのであろう。

そして、こうした21世紀型の情報化社会を支えていくためには、教育の改革が不可欠である。1996年7月19日に中央教育審議会から出された「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」というの答申の中では、「情報化と教育」について次のように提言されている。
「初等中等教育においては高度情報通信社会を生きる子どもたちに、情報に埋没することなく、情報や情報機器を主体的に選択し、活用するとともに、情報を積極的に発信することができるようになるための基礎的な資質や能力、すなわち「高度情報通信社会における情報リテラシー(情報活用能力)」の基礎的な資質や能力を育成していく必要があること」 いささか遅きに失した感があるが、文科省もこれまでの機械暗記型の「メモリー型教育」から情報活用能力育成といった「CPU型教育」への転換の必要性を訴えている。

精神科医でもある和田秀樹氏は『大人のための勉強法』(PHP新書 2000)の中で、IT時代に求められる能力について、「知識を多く身につけてきて、それを使って適切な問題解決を行なう推論ができる人ということである。もちろんこれは受験勉強だけでなく、実社会でのさまざまな問題解決で求められる思考力のはずだ」と述べる。

情報化社会における情報教育というとパソコンなどの機器についての知識を高め、これまでの臨教審路線の中軸であった「科学技術立国」政策の後釜的なものと捉えがちである。確かに、現在の情報教育は、元々情報機器産業が後押しするIT戦略本部から打ち出されたもので、結局はメーカーの製品の販売台数向上を目的として出発したものである。しかし現在の文科省の路線は、そうした総務省の路線を総合的な学習時間や、調べ学習と結びつけて、それまでの欧米に追い付け型の情報教育ではなく、グローバルスタンダードの競争社会の中で勝ち残っていくーとりわけベンチャービジネスなどーために必要とされる創造力と情報発信能力の向上を打ち出している。

そしてさらに文科省はこの情報教育を幅広く捉え、「生きる力」というスローガンに結実させている。1998年に改定された学習指導案の根幹ともなる「新しい学力観」について、文科省は「知識・技能は重要であるが,単なる知識の量のみではなく,学ぶ意欲,思考力,判断力,表現力まで含めて学力ととらえる必要がある。(学習への関心・意欲・態度や将来の生活に関する課題に適応する能力 を重視するのは国際的な流れ)」と述べ、課題発見・問題解決能力の育成に重点を置いている。
専大教授の正村公宏氏は『改革とはなにか』(ちくま新書 1997)の中で、教育について次のように述べる。少々長いが引用してみたい。

「教育の基本は、個々の子どもの潜在能力を発見し、伸ばすことであり、子どもの自己開発の意欲と能力を育てることである。重要なのは彼らの内発的動機を養うことであるが、日本の学校教育は、ほとんど意味のない詰め込みによって子どもの内発的動機をかえって殺している。歴史の授業では、多くのこまごまとした知識の詰め込みが強制され、さまざまな歴史的事件にたいして「なぜ」という問いを発することの重要性を学ばされることは少ない。過去について「なるべくしてなった」という認識をもつことができない人間は、未来についても「なるようにしかならない」という認識しかもつことができないだろう。日本の子どもたちが正常な歴史感覚をもち、人間と社会のあり方を考えるようになり、新しい状況を創造していく主体に育っていく可能性はきわめて低い。複雑な現実の中からさまざまな問題を発見し、それらの問題を解決するために複数の手段の適切な組み合わせを考えぬくというようなことにたいして、子どもたちは興味を示さなくなっている。」
正村氏の示す、「内発的動機」を高め、「複数の手段の適切な組み合わせを考え抜く」情報活用能力の育成には次の3点に分類される。

  1. メディアの受け手としてのリテラシー
    …メディアを批判的に選択、分析、理解する能力
  2. メディアの使い手としてのリテラシー
    …メディアチャンネルを有効に利用し、メッセージを効果的に活用する能力
  3. メディアの作り手としてのリテラシー
    …創造的にメディアを利用し、メディアチャンネルに参画し、メッセージを積極的に創造していく能力

情報メディアの特性と活用について
情報メディアには、印刷・紙媒体のよる資料類のほかに、視聴覚資料、マルチメディア/ハイパーメディア、さらにはインターネットに代表されるネットワーク上で、またはオンラインで流されるデータやメッセージなどの情報も含まれる。

  1. 印刷メディア
    印刷メディアは、ごく一般的に、図書、および、雑誌などの逐次刊行物、パンフレットに分けられる。可搬性に優れ、通覧性が高く、極めて簡単なパッケージの中に、人間の思想や感動といったものを順序良く体系的に詰め込むことが出来る。
    しかし、印刷メディアはあまりに多くの情報を一斉に効率的に伝えることができるために、学校教育の中においては、教科書中心の知識獲得型学習の固着を促した。
  2. 視聴覚メディア
    利用に特別な機械を必要としない簡易視聴覚メディアとして、写真や絵はがき、美術原画、地図、実物標本などが挙げられる。また再生機器が必要な音声・映像メディアとして、カセットテープやCD、MD、またビデオテープやDVD、マイクロフィルムなどが挙げられる。これらのメディアを利用することにより、海外の生活や文化などの理解の促進、通常は見られない動植物の生態の観察など、臨場感をもって該当に接することができる。印刷メディアに比べて、学習者にとって具体的経験を伴うものであり、学習者の理解を向上させる。
  3. 電子メディア
    主にパソコン関連のメディアであり、FDやMO、CD-ROM、DVD-ROMなどが挙げられる。これらのコンテンツを利用することにより、これまでの受動的学習態度から、主体的な学習態度への転換が促される。またこれらのメディアは受信するだけでなく、発信することができ、知識獲得型学習から創造、問題解決型学習への転換も生まれる。
  4. 放送・通信メディア
    1933年NHKラジオによる教育放送の開始、1953年にNHKテレビによる学校放送が開始されて以来、比較的早く学校教育の中に取り入れられてきた。また最近ではNHKによる「インターネットスクール」や文科省による「エル・ネット」などインターネットや通信衛星を利用した多角的な方向へ広がりを見せている。いずれも電子メディアと組み合わせることによって、これまでの放送メディアの弱点であった保存性が改善され、より広く学校現場で使われていくメディアである。

このように学校内にはさまざまなメディアがあり、子どもたちがメディアを自由に利用出来るよう効果的に、計画的に整備していく必要がある。

メディア専門職としての司書教諭の任務と役割について
アメリカ・スクールライブラリアン協会は、1988年にまとめた「INFORMATION POWER-Guidelines for School Library Media Program-」の中で、メディアスペシャリストの役割を次の3つに分類している。

  1. 情報の専門家
    図書館のメディア・スペシャリストは、学校の中に組織的に育成されたコレクションを通して、生徒や教員がリソーセスを利用することができるようにする。すなわち、情報の提供のコーディネーターとして、「このような場面ではこのようなメディアを、このメディアはこのように用いれば効果的」と教師にアドバイスをし効果的な教育支援を行なう。またメディアの管理者として、一元的管理を行ない、校内のメディアを有効に利用出来るものにする。
  2. 教師
    児童・生徒や教師に新しいメディアへの京美や関心を換気させ、利用に挑戦させるように働きかけるプロモーターである。
  3. 学習指導コンサルタント
    図書館メディア・スペシャリストは、メディア教育で教師間、科目間との連携、調整をし、系統的な教授開発法のプロセスを用いて、教員と協力して教授活動の改善を行なう。

以上のような役割を受け持ちながら、これまでの知識偏重型の教育から、自ら調べ、学び、自らの解答を導きだしていく推論考察型の教育への転換を促すという極めて重い役割を担っている。

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