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『幕末』

司馬遼太郎『幕末』(文春文庫 1977)を少しだけ読む。
晩年元年三月三日朝、江戸城桜田門外で春の雪を血で染めた大老井伊直弼襲撃など、幕末に起こった12の暗殺事件の顛末を描く連作小説である。
第1話の「桜田門外の変」は、薩摩藩士として唯一襲撃に参加した有村次左衛門を中心に描く。治左衛門の心には薩摩藩を代表するという心意気が死ぬ直前まで消えることがなかった。

最後に司馬氏は次のように語る。
テロを肯定することはできない。しかし、悪政を倒す革命の始まりだと捉えれば、その意義はその後の歴史の中で丁寧に検証するしかない。司馬氏は「明治維新を肯定するとすれば」と限定を付けた上で、桜田門外の意義を説く。

 この桜田門外から幕府の崩壊が始まるのだが、その史的意義を説くのが本篇の目的ではない。ただ、暗殺という政治行為は、史上前進的な結局を生んだことは絶無といっていいが、この変だけは、例外といえる。明治維新を肯定するとすれば、それはこの桜田門外からはじまる。斬られた井伊直弼は、その最も重大な歴史的役割を、斬られたことによって果たした。三百年幕軍の最精鋭といわれた彦根藩は、十数人の浪士に斬り込まれて惨敗したことによって、倒幕の推進者を躍動させ、そのエネルギーが維新の招来を早めたといえる。この事件のどの死者にも、歴史は犬死をさせていない。