岩井志麻子『偽偽満州』(集英社文庫 2007)を読む。
1931年(昭和6年),関東軍が満州事変を契機に満州を支配下に収めた頃,岡山の片田舎から満州まで流れ着いた女郎・稲子の性愛たっぷりの逃避行生活を描く。一昔前の日活ロマンポルノのようなペーソス漂う作品であった。
幻の男を追いかけ,大連,奉天,新京,哈爾濱と流れていく稲子の崩れていく様子は,そのまま石原莞爾の宣伝に乗っかり豊かな生活を妄想し大陸へ渡って来た日本人の姿と重なる。
途方もない赤い大地を疾駆する,鋼鉄の機関車。そして壮麗な駅舎。あれは野望と希望の象徴として作られたのだ。どこにも行ける夢の乗り物として,この大地に建設されたのだ。
だが,終着駅が用意されていることを,忘れていた。乗った人間すべてが,最も相応しい駅に降りられるかどうかは,誰にも分からないのだ