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『自転車ツーキニスト』

疋田智『自転車ツーキニスト』(光文社知恵の森文庫 2003)を読む。
『自転車通勤で行こう』(wave出版 1999)に加筆修正された文庫本である。自転車に関するよもや話よりも,自転車通勤が好きなテレビディレクターを生業とする著者の社会観や仕事観に紙幅が割かれている。外交官批判や中米ホンジュラスで活躍する日本人女性の話など興味深かった。
後半,著者は次のように述べる。

自転車というのは,精査無用の20世紀が誇る技術だと言える。何に負担をかけるでもなく,自らの力で,人間の移動範囲を画期的に伸ばす。実に素晴らしい。これをもっと活用する方法はないのかと思う。特に東京のような大都市においては,必ず有効に作用する。私はそれを断言するつもりだ。
大袈裟なことを言うならば,社会全体として自転車を使いやすい街を作るべきなのだ。アムステルダムをはじめとする西欧の東側や,北欧の諸国の町々はすでにそうなっている。
日本という国は,戦後,「撤退」を知らずにここまで来た。
今の不景気は,ひょっとしたら「撤退」するのにちょうどいいチャンスだ。便利さ追求から少し撤退してみるのだ。そしたら,本当に必要なものが見えてくる。本来の気持ち良さが分かってくる。

本論とはいささか離れるが,著者が新婚旅行で「ニューカレドリア1番の豪華ホテル」に宿泊したにも関わらず,一人読書に耽る場面での妻とのやりとりが面白かった。

「いや,以前もこういうことがあったんだ。取材で行ったロスアンジェルスでさ,2日間ぼっかりとスケジュールが空いちゃって。カメラクルーやスタッフが皆んな現地の人だったからさ,みんな家に帰っちゃって,俺,一人っきりになっちゃったんだよね。で,ロングビーチで一人寝そべって読んでたんだよ」
「何を?」
「立花隆の『中核と革マル』」
「……」
「そういうシチュエーションだと,本の内容が異常に頭に残るんだよね。目の前はすごく綺麗なビーチなんだけどさ,本の中では過激派の闘士がが鉄パイプやバールを振り回してるの。はは,だから,俺,ロングビーチというと必ず学生同士の内ゲバを思い出しちゃうんだよね」