高橋伸夫・内田和子・岡本耕平・佐藤哲夫『現代地理学入門:身近な地域から世界まで』(古今書院 2005)を読む。
創価大学から送られてきた「人文地理学」のテキストである。大学の地理学の授業で使われる入門書である。
地理学という学問が対象とする範囲の広さに改めて驚いた。
著者の一人である高橋氏は、「人びとが自然環境あるいは土地資源を活用し、長い歴史の間にあらゆる営為と知恵を土地に刻みこんだもの」を読み取る視点こそが地理学であり、地理学を学ぶことで、「いかなる土地へ行っても地域性を見い出す力が備わり、地域の現状と将来の発展が予想できる」ようになり、「人間と自然との共生はいかなるものか」理解できるようになると述べる。
章立てを並べてみるとその扱うスケールの大きさが窺い知れる。第1章から第12章まで次のタイトルで構成されている。「地図に親しむ」「身の回りの景観」「フィールドを歩いて地域を調べる」「環境の変化と高潮被害」「人口の地理学」「日本の産業に何が起きているか」「都市とは何か」「都市と農村」「観光・余暇の地理学」「人とモノの流れ」「GISって何だろう」「マイノリティ地理学から批判地理学へ」
最後の章「批判地理学」で、大阪市立大学の水内俊雄氏は、大阪の「あいりん地域」の実態に触れながら、都市の貧困現象や社会の底辺の問題に対しても踏み込んだアプローチをすることがこれからの地理学に求められると述べる。
大阪市の様々な諸集団、マイノリティに属すると思われる人びとの状況を、都市の貧困という表現でくくるのことは必ずしも正しくはない。いろんな機会やサービスを受けることに障害があったり、あるいは要望や意見の主張に関して社会的、歴史的な制約を受ける社会的排除や地理的に不利な空間を占めざるを得ない。あるいはそこに封じ込まれてしまったという空間的排除の現象を起こしやすいことが真相であった。この社会的排除や空間的排除は、どうして排除が起こるのか、というメカニズムや社会的構造に深く踏み込む思考をわれわれに提供してくれる。
フクシマの現状に照らして考えてみると、この水内氏の指摘は興味深い。なぜ原発を交通の不便な福島県に作ったのかという点から議論をスタートさせていく必要がある。