城西大学・城西短期大学のパンフレット(2014年度版)を読む。
ウェブで調べたところ、城西中学高等学校は、大正自由教育運動で有名な野口援太郎氏が創設した「池袋児童の村小学校」の系譜を受け継いでいる。「池袋児童の村小学校」自体はすぐに閉鎖を余儀なくされたが、1925年に城西実務学校に教育者野口援太郎を第2代校長に迎えている。西武池袋線椎名町にある城西中学高等学校では、現在でも創立者の精神に触れた教育方針を掲げている。
中学高校を母体として、1965年に東武東上線川角駅から徒歩8分の場所に、経済学部経済学科と理学部数学科・化学科で構成される城西大学が創立されている。1973年に薬学部、1983年に女子短期大学が開設されている。1992年には姉妹校として千葉県東金市に城西国際大学を設立している。現在では経営学部マネジメント学科、現代政策学部現代経済システム学科、経済学部経済学科、理学部数学科・化学科、薬学部薬学科・薬化学科・医療栄養学科と短期大学で構成されている。2005年に城西国際大学と共用する東京紀尾井町キャンパスが開設され、理学部数学科と短期大学は入学後に坂戸キャンパスと紀尾井町キャンパスを選択できる仕組みになっている。
海外の大学との交流協定やら海外の文化勲章受賞式が派手に紹介され、創価大学のパンフレットかと思うほど理事長が全面に出ている。創立者の水田三喜男は池田勇人内閣の大蔵大臣を務めた著名な人物であるが、その水田氏が蒐集した浮世絵を展示する美術館や資料館、はたまた生家までがパンフレットで紹介されているのは如何かと思う。
帝京大学の後追いなのか、城西国際を含めると、東京・埼玉・千葉の3県に5カ所のキャンパスが置かれ、看護やらメディアやら観光などの目新し学部がどんどん開設されている。理学部数学科に至っては同じ大学の同じ学部学科に所属しているにも関わらず、キャンパスが4年間別々のまま卒業を迎える。駅伝や陸上、硬式野球といった強化指定クラブで大学のイメージ戦略を図る一方で、学生が自分のアイデンティティを投影する大学という場がどんどん希薄化されてしまっている。今後の発展が怖い大学である。
月別アーカイブ: 2013年11月
「指導者は人間教育ができなければいけない」
「Joint-Success」第30号(JSコーポレーション 2013年10月)に掲載されていた長崎総合科学大学教授小嶺忠敏氏へインタビュー記事を読む。
指導者論についてのコメントを引用してみたい。
小嶺氏は指導者としてあるべき信念について次のように語る。
指導者と生徒・選手は競争関係にあると考えています。教えるとか教わるということより、指導者が率先して示していくことが大事だと思います。人としての礼儀はもちろん、決められたルールは守る、遅刻はしないなど、指導者が基本的なことを示してやること。これが原点です。
また生徒・選手との競争関係の中で、具体的な指導法について次のように語る。
選手にあわせて、各々指導方法があるんです。彼らはみんな性格も能力も違いますから、選手の数だけ指導法があるのではないでしょうか。指導者の役割は、一人ひとりの性格や能力を分析し見極めていくことです。長所があれば伸ばしてやる、短所があれば修正するよう一緒に努力する。そうすることで、彼らは自信を持てるようになって、ドリブルの上手い選手、足の速い選手、パワーのある選手といったように、それぞれ特性を活かした選手が育つわけです。その集合体がチームです。
さらに、小嶺氏は生徒・選手たちの接し方について次のように語る。
まずは自分がグラウンドに出ることです。一緒に練習して、同じ長い時間を共に過ごす。すると「こいつには、こんな持ち味があったのか」と、その個性に気づく局面があります。ならば、この個性を伸ばすためのトレーニングを考えてみよう、となります。また、寮で一緒に生活すると、練習では見えていなかった性格がよくわかります。同じ時間を過ごし、話したり観察することが大事です。プレーを一瞬見ただけで、その選手を理解できる指導者は天才ですよ(笑)。時間をかけて彼らを知る努力をするのが私のやり方です。
また、もう一つ大事な点とである「3つの目線」を使い分けについて、次のように述べる。
1つは上から目線でビシッと厳しく、グラウンドでチームの約束事を教え込む目線。2つ目は対等な目線。技術を憶えさせて自由自在に動けるように育てる目線です。3つ目は選手が悩んだり迷ったときに寄り添って話を聞いて励ましてやれる下からの目線です。指導者はこの3つの目線を上手に使いこなさなければいけません。指導する側もいろんな努力をしなければ選手たちに思いは伝わりません。努力する情熱を持った指導者は、すごく魅力的です。その魅力がなければ、選手たちはついてきませんよ。
また、指導者の役割として次のように述べる。
サッカーだけが上手くても駄目です。選手一人ひとりの人間性も、強いチームには不可欠です。特に高校時代は人間としての基礎を磨く時期。だからこそ人間教育が大切なんです。その基本が「挨拶」、「返事」、「後始末」。普段の練習や遠征先、試合においても基本ができなければ、良いチーム、強いチームには育ちません。スポーツの指導者は、人間教育ができなければ二流だと思います。我々指導者が守るべきことは、彼らを使い捨てにしてはいけないということです。卒業後の進路、就職でも進学でも、将来をちゃんと見据えて指導してあげないといけません。一生懸命やってきた生徒・選手たちをちゃんと出口まで指導してあげるべきです。ですから、私も社会人や大学チームへ選手を紹介する努力は惜しみません。責任を持って彼らを次の世界へ送り出すのは我々指導者の務めではないでしょうか。
大学案内研究:西武文理大学
西武文理大学のパンフレット(2014年度版)を読む。
「西武」と名が付くものの西武グループとは関係なく、「文理」と付くものの文学部も理学部もない
1999年にサービス経営学部サービス経営学科を置き、「サービスを学問する」という一風変わった特徴を掲げて設置された新しい大学である。2007年に健康福祉マネジメント学科が増設され、さらに2009年に看護学部が開設されている。「ホスピタリティ」を重視しており、サービス産業、福祉産業、看護の別を問わず、「おもてなし」の心を持った「接客」のプロの養成を目的としている。
西武新宿線の新狭山駅からスクールバスで8分という不便な場所にある。ただし、同敷地内に中学校と高等学校があるため、スクールバス網は整備され、西武池袋線の稲荷山公園駅、JR青梅線と八高線の東飯能駅、東武東上線の川越駅と鶴ヶ島駅、JR埼京線の川越駅の5つの駅からそれぞれスクールバスが運行している。
パンフレットを読む限り、典型的な国道16号沿いの「郊外型」大学の特徴そのものである。奨学金の充実や取り組みやすいAO入試、秋田県立能代高校のコーチを招聘し指定強化のバスケットボール部、ブライダルプランナーや旅程管理主任者、赤十字救急法救急員などの眉唾な資格、また資格取得援助奨学金、実卒業者より2割も低い就職希望者など、かつて読んできた大学とほぼ同じ内容が網羅されている。また学食のメニューや川越のおしゃれなお店などの紹介写真もすでに定番となっている。
敷地内に狭山市と川越市の市境が通っており、パンフレットでは「狭山キャンパス」と「川越キャンパス(狭山キャンパス隣接)」と2つの住所が併記されている。
サービス経営学部の方は、形だけの共通科目と、ただ配列されただけの専門科目がカリキュラムとして紹介されている。ブライダルや観光の専門学校と大差ない。いやキャンパスの場所などを考えると、専門学校の方が上か。
看護学部の方は、入試でも4倍近い数字があり、新設校の割には幸先の良いスタートを切っている。
さぞかし定員割れをしているのだろうと思いきや、大学全体では収容定員を上回る学生が集まっている。不思議な大学である。
『国見発 サッカーで「人」を育てる』
小嶺忠敏(長崎総合科学大学情報学部経営情報学科教授・長崎総合科学大学および同附属高等学校サッカー部総監督)『国見発 サッカーで「人」を育てる』(NHK出版 2004)を読む。
武専のレポート「指導者論」を書くに当たっての参考文献として手に取ってみた。
執筆当時、長崎県立国見高校校長職にあった小嶺氏が、指導者のあり方や、高校サッカーを闘うためのチーム作りの妙や高校教師としての教育観を語る。印象に残った点を引用してみたい。
指導者というのは、赤ん坊が自然に生まれてくるときに立ち会う”助産婦”のようなもの。つまり、指導者の役割は選手が悩んでいるときに、「こんなこともあるよ。こんなふうに考えられるよ」と、ヒントを出すことです。それがきっかけとなり、選手が自分で考えて、自分の力で大きく伸びていく。それが人を育てることだと思います。
サッカー部に入ると、ほとんどの選手はレギュラーポジションを目標にします。しかし、サッカー部で3年間を過ごす真の目的は、「人生の勝利者になること」です。私はよく、生徒に言っています。
「レギュラーになった、ならないというのは、高校時代の3年間のこと。人生90年のたった3年間です。私たちは、タケノコと一緒のようなもの。太陽の光と土の養分を吸収して伸びていき、冬の寒いときは根を長くしていく。高校時代にレギュラーになった人はここで花が咲いたわけだが、残りの人生でも花を咲かせなくてはいけない。
たとえレギュラーになれなくても、高校で3年間、サッカー部で練習してきた結果、すばらしい人生を歩むための根を手に入れることができるのです。養分をたくさん蓄えた根を持って磨いていけば、高校を卒業後にかならず枝が出て、大輪の花を咲かせることができます。高校の部活動でレギュラーにならなかったけれど、卒業してから立派な花を咲かせた人はたくさんいます。
(中略)
3年間、苦しい思いをして練習してきたことは、確実に心と体を鍛えている。絶対、無駄にはなりません。大切なことを目標に挑戦すること。どんなに弱いチームでも、1試合で必ず3回はチャンスがある。人生にも3回はチャンスがあるから、自分を磨き続けることです。その時に準備ができていれば、大輪の花が咲きます」
朝礼でも、入学式でも、講演会でも、私はよくこの話をしています。
サッカーにおいての「いい指導者」は、技術、戦術、体力、精神力を教えることができる人です。でも、全国の頂点に立つには、これらにプラスアルファの力がないとできません。私が見てきたなかで、「すごい指導者」は人間性を育成できる力を持っています。
高校時代は、人間の基礎を磨く時期です。知育、体育、徳育のことですが、特に徳育、言い換えれば、人間教育が大切になります。
基本は「挨拶」「返事」「後始末」がきちんとできることです。たとえば剣道や柔道にはそれが組み込まれていますが、ややもすると、いまの日本では失われつつあることです。たとえば、グラウンドにサッカー部の練習を見に来る人がいれば椅子を持っていく。体育館だったらお客様にスリッパを出す。挨拶するときには立ち止まってお辞儀する。どれも、家庭でしつけているような基本的なことです。
(中略)
私の経験上、人間教育のできているチームは、「ここぞ」という競り合いに強い。サッカーだけ教えていても、人間教育のできていない指導者は二流だと思います。
また、指導者は自分を律するところが必要です。
大学案内研究:明治学院大学
明治学院大学のパンフレット(2014年度版)を読む。
「ヘボン式ローマ字」で有名なJ・C・ヘボン夫妻が、1863年に横浜に開設したヘボン塾が母体となっている。1880年に東京築地に移転され、1886年に明治学院と改称されている。作家島崎藤村は当時の明治学院の第一期卒業生であり、同校の校歌も作詞している。
1949年、文経学部英文学科・社会学科・経済学科からなる4年制大学がスタートしている。現在は、英文学科・フランス文学科・芸術学科からなる文学部、経済学科・経営学科・国際経営学科からなる経済学部、社会学科と社会福祉学科からなる社会学部、法律学科・消費情報環境法学科・政治学科からなる法学部、国際学科と国際キャリア学科からなる国際学部、心理学科と教育発達学科からなる心理学部の計6学部15学科で構成されている。
正直、パンフレットを読んでも大学の魅力があまり伝わってこない。外部の印刷業者のフォーマットにただ大学の情報を入れただけのような内容である。英語に力を入れているという話であるが、特段英語教育の紹介もなく、少人数制ゼミの紹介もない。学問の深みに誘うような記述もなく、留学や大学院の紹介も極めて簡素である。モデル活動と両立しているイケメン学生やおしゃれな女子学生が登場するが、サークルや部活動に一生懸命な学生はおらず、大学の環境や制度を誉めるだけで、学生の姿が見えてこない。
また、共通科目に「ボランティア学」や「ボランティア実習」「ボランティア特別研究」といった科目があるが、ボランティアに参加すれば単位が認定されるのであろうか。
4ページずつ全15学科の紹介が続くが、どれも似たり寄ったりで面白味がない。また、どの学部学科のカリキュラムを見ても、就活に取り組みやすいように、大学4年生はほぼ卒論とゼミだけしか置かれていない。
1学年3000名弱というかなりの規模であるが、国際学部を除いて、1・2年生は横浜戸塚キャンパスで、3・4年生は東京白金キャンパスで学ぶ完全な分離キャンパス体制を敷いている。そのためサークル活動も全般的に低調である。
女子学生が多く、白金のおしゃれなイメージに包まれた大学であるが、パンフレットを読む限りでは、カリキュラムや学生の自主活動などについは偏差値50に満たない日東駒専より下の大学と大差ないと言わざるを得ない。
パンフレットを読む限りの印象を書いたが、明治学院の代々の学長の平和に対する姿勢は注目に値する。