日別アーカイブ: 2013年10月20日

『ばかもの』

絲山秋子『ばかもの』(新潮文庫 2008)を読む。
久しぶりに小説を手に取ったためか、貪るように読み終えた。
雑誌「新潮」平成20年1月号〜8月号に連載された小説である。冒頭は官能小説のようなシーンから始まる。群馬県内の名もない大学を卒業し、やがて「行き場」を失ってしまい、アルコール依存症に陥ってしまう青年の心模様が克明に描かれる。酩酊しながら町を彷徨い歩く青年を通して、「行き場」のない自分探しという泥沼にハマってしまうロスジェネ世代の鬱屈した感情が伝わってくる。後半は、太宰治の『人間失格』のような疲れ果てた恋愛ストーリーへと変わっていく。
短い小説であるが、絲山さんの本領が発揮されたような内容で面白かった。

「五日市憲法」

本日の東京新聞朝刊に、皇后さんが宮内記者会の質問に「五日市憲法」に強い感銘を受けたとの回答を寄せたとの記事が掲載されていた。
皇后さんは昨年1月に東京都あきる野市の五日市郷土館を訪れ、展示されている草案を視察しており、基本的人権尊重や教育の自由などに触れた「五日市憲法草案」について、「政界でも珍しい文化遺産ではないかと思います」と回答している。
確か、色川大吉氏の本では、この五日市憲法草案は現日本国憲法にも反映されており、米国の一方的な押しつけであると喧伝する自民党の見解は間違っており、日本の民衆から生まれた憲法であると述べられていた。皇后さんがこのように発言するということは、改憲論議そのものの前提となっている「押しつけ」が間違いであり、憲法尊重を重んじるべきだという意向なのであろう。
改憲論議が喧しいなかで、ちょっとした清涼剤の役割は果たすであろう。

  • 五日市憲法草案
    東京・奥多摩地方の五日市町(現あきる野市)で1881(明治14)年に起草された民間憲法草案。204条から成り、基本的人権が詳細に記されているのが特徴。自由権、平等権、教育権などのほか、地方自治や政治犯の死刑廃止を規定。君主制を採用する一方で「民撰議員ハ行政官ヨリ出セル起議ヲ討論シ又国帝(天皇)ノ起議ヲ改竄スルノ権ヲ有ス」と国会の天皇に対する優越を定めている。1968年、色川大吉東京経済大学教授(当時)のグループが旧家の土蔵から発見した。