船瀬俊介『やっぱりあぶない、IH調理器』(三五館 2005)を読む。
現在爆発的に普及しているIH調理器が発生する電磁波の問題を正面から取り扱っている。特に設置型のIH調理器からは安全基準の千倍以上の1000ミリガ ウスもの電磁波がまき散らされている。しかし、そのことを意図的に隠蔽するメーカーやマスコミの姿勢を強く批判する。またオール電化の家がもてはやされて いるが、電力の生成まで遡るとコストが高くつき、ガスの方が地球にも優しいという。夜間電力を活用するエコキュートは何十万もかかるだけでなく、24時間 稼働する原子力発電の正当性を助長するものであり、国家的な欺瞞であると述べる。
筆者は、家庭用燃料電池が家庭でのエネルギー供給の中心となるべきであり、ガス管こそが未来への「送電線」となると述べる。
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『ファスト風土化する日本』
三浦展『ファスト風土化する日本:郊外化とその病理』(洋泉社 2004)を読む。
タイトルが示すとおり、1990年代以降、郊外や地方に、ファストフードやファミレス、ジャスコなどの大型ショッピングセンターが大量に建設された。それは一見、物に溢れた豊かな「田園都市」を彷彿させるものである。しかし、時期を同じくして、少子化ともの作りの空洞化が進んでいった。そして、特に地方は、その地にあった零細企業や町の商店街、コミュニティが崩壊し、ただ東京に憧れ東京と同じものを消費するだけの人や町に変質してしまった。
地方農村部が郊外化すると同時に、中心市街地の没落すすみ、全国一律の均質な生活環境が拡大していった。その象徴であるジャスコのできる所に犯罪が生まれると著者が述べる。かつては地縁血縁が根付いた地方、もしくは匿名の雑多な都市のどちらかに、自分の居場所を確認することができた。しかし、均質の郊外では、自分の存在を根付かせることができず、自己否定型の犯罪が激増してしまう。
著者は、消費するだけの街ではなく、「働く」という行為を戻せと主張する。
街の中に仕事があるということは、多様な人間を街の中で見るということであり、その人間同士の関係の仕方、コミュニケーションの仕方を知らず知らずのうちに肌で感じるということである。異なる者同士が、仕事を通じてかかわり合い、言葉を交わし、利害を調整し、仕事を進める。それこそがコミュニティがあるということであり、公共空間があるということなのだ。(中略)
住宅しかない郊外住宅地は、消費と私有の楽園である。人は自分の家族とだけつきあい、消費をしている。そこには健全な公共性がない。健全な公共性のない空間で、子どもが社会化することは難しい。
だから、今後必要なのは、街に「働く」要素を再び持ち込むことだ。
『凡人として生きるということ』
押井守『凡人として生きるということ』(幻冬舎新書 2008)を読む。
『機動警察パトレイバー』や『イノセンス』などの作品で知られるアニメーション・実写映画監督の著者が、老い、自由、勝負、セックス、コミュニケーショ ン、オタク、格差など、人間の本質に迫るテーマについてズバリ語る。ファッションや趣味だけでなく、性欲や愛情、育児までもが高度消費社会に組み込まれた 現代日本では、自分を「凡人」と規定した上で、社会との接点を決して切らない自己の世界を築き、そこに情熱をもって生きることが大切だと述べる。
私自身、これまで多くの人生論を読んできたが、その中でもこの本は印象に残るものであった。また数年後読み返してみたい。
『「論理力」のある人が成功する』
出口汪『「論理力」のある人が成功する:対人関係から時間活用まで、実践ロジカル思考法』(PHP研究所 1999)を読む。
著者が述べる評論文問題やや小論文入試における「ロジック」をテクニカルに日常生活に生かす指南書かと思って手に取った。確かに九州大学の現代文問題が掲 載されており、参考書らしい箇所も一部にはあった。しかし、結局は著者のこれまでの苦労が実を結んだという成功譚であり、自身が創立したSPS(スー パー・プレップ・スクール)の宣伝本に過ぎなかった。タイトルにある対人関係も時間活用も「ロジックで全て解決できる」といった金太郎飴的な解説を繰り返すことに終始している。
「変わる世界と、変わらなかったエジプト」
本日の東京新聞夕刊に、高橋和夫放送大教授の「変わる世界と、変わらなかったエジプト」と題したコラムが掲載されていた。
その最後で、高橋氏は次のように大胆に予言する
アラブ諸国には(エジプトと)同じような構造の体制(非民主的な選挙や30年続く戒厳令など)が多い。エジプトの現象の波及は 不可避であろう。(中略)となると長期政権で、しかも政府の力が比較的弱く、その上に国民を懐柔するに十分な石油収入を持たない国が、最も可燃性となる。 ずばり言ってイエメンが危ないだろう。
翻って北東アジアで考えれば、北朝鮮という国の名前がすぐに頭をよぎる。しかし、北朝鮮の不安定な独裁体制を温存し、国際政治の取引材料として悪用 しようとしているのが、世界第1位の経済軍事大国である米国であり、本日の経済発表で世界第2位の経済大国となった中国である。
現在エジプトで起きている「革命」を遠い国の事件として聞き流すのではなく、隣国に起きるかもしれない、起きなくてはならない、いや「正しい形」で起こさなくてはならない政治的展開として、他山の石とする必要があると思う。